254.もうそれは判ったから
「例えば?」
聞いてみた。
「そうですね。
有名なのはキリストが生まれたというベツレヘムの街ですが、生誕地として観光地化されていて、馬小屋があったとされる場所に立派な教会が建っているんですけど」
「そうなの」
「そもそもその場所に馬小屋があったという話が眉唾です。
二千年前に小屋が建っていたって、どうやって証明するのかって話ですよね」
「それはそうかも」
「大体、キリストがベツレヘムで生まれたという話自体、ユダヤ教の預言で『救世主はベツレヘムで生まれる』という記述からきているらしいんですよ。
キリストの両親が住んでいたのはナザレだと言われてます。
これもいい加減なんですけど、なんでキリストを産むためにわざわざ臨月の母親がベツレヘムまで旅行しなきゃならないの? とかもうツッコミどころが満載で」
レスリーが止まらなくなった。
ヲタクに蘊蓄を語らせてはならない。
「もうそれは判ったから」
「そうですか。
思わず熱くなってしまいました。
とにかくそういうことで、聖地とは心の中にあるものなのです」
上手くまとめたつもりだろうけどドン引きだよ(泣)。
まあいいけど。
車は再び街道らしい広い道路を走っていた。
またもや何もない土地だ。
英国って土地が余っているのか。
「どこに行くの?」
「グラストンベリーです。
アーサー王のお墓ってあっちこっちにあるみたいなんですが、そのうち一番有名な場所ですね」
「いくつもあるの?」
何度も死んで復活したとか。
「そもそも存在自体が伝説なので、それっぽいお墓や遺跡がそうじゃないかと言われているみたいです。
その中で一番有名というか、あのアニメにも出てきた場所ですね」
「ああ、あれ」
アニメでは何か廃墟みたいな建物というか石壁のそばにひっそりとあったっけ。
「あの描写、正しいですよ。
グラストンベリー修道院の廃墟って、壁だけが残っている場所があるんですが、芝生の中にぽつんとあります」
「よく知ってるね」
「行ったことありますから」
そうなのか。
さすがは重度のアニヲタ。
聖地巡りもやっていたらしい。
まあ母国だからその気になれば割と簡単に行けるだろうけど。
どんなところ? と聞こうかと思ったけど、今まさにそこに向かっているわけだ。
自分で見た方がいいかも。
どれくらい走ったのか、レイナは肩を揺すられて目を覚ました。
いつの間にか寝ていたらしい。
景色が単調な上に座席の座り心地が良いものでつい。
「もうすぐ着きます」
「ありがとう。
どれくらい寝てた?」
「1時間くらいですか」
結構遠かった。
窓の外を見ていると道が混んでいた。
車が多い。
大型バスもある。
「これは?」
「観光客でしょうね。
割と人気があるので」
アニヲタは世界中にいるし、ヲタクはお金持ちが結構多いので聖地巡礼に来るのか。
レイナもその一人だったりして。
レスリーが運転手と話してから言った。
「駐車場が一杯らしいです。
ちょっと遠いですが、ここで降りて歩きましょう」
「判った」
護衛は小娘たちに黙々と従うだけだった。
プロだな。
 




