251.準備出来ました
電話を切ってからレスリーに言ってみた。
「なら行きたいところがあるんだけど」
「行きましょう。
どこですか?」
この女、本当にブレないなあ。
自分の欲望のままに生きている。
「ええと、アーサー王のお墓とストーンサークル」
「判りました」
レスリーは「少々お待ちください」と言って部屋を出て行ってしまった。
待てというのなら待つけど。
レイナはとりあえずよそ行きの服を脱いでハンガーにかけた。
キャリーケースからモールで買ったラフなワンピースを出して着てみる。
まあまあ着心地が良いからこれを部屋着にしよう。
コーヒーを煎れてからソファーに坐ってテレビをつけたけど、相変わらず言ってることが判らない。
英語だろうけど聞き取れないのはなぜか。
どうみてもレイナが夜間中学で習ったみたいな話し方じゃないのよね。
誰もI haveとか言わないし。
しょうがないのでチャンネルを色々切り替えて観光ビデオみたいなプログラムを観ることにする。
これは当たりだった。
説明は判らないけど綺麗な街並みとか小高い丘にそびえ立つお城とか、興味ある風景が次々に映し出される。
日本の街と違って家は大抵ゴツゴツとした石造りで地面は石畳だ。
ちょっとミルガンテに似ている。
街の中心には大抵広場があって、その中心に銅像が立っていた。
映画で観たけど本当だったんだ。
お城は観光施設化されていた。
その他にも貴族の館らしい大きな建物とか綺麗な公園などが延々と続く。
さすがにちょっと飽きて来たところでチャイムが鳴った。
ドアを開けるとレスリーが立っていた。
「準備出来ました」
「何の?」
「観光ですよ!
車出して貰ったので行きましょう」
仕事早すぎない?
まあいいか。
この分だとタイロン氏たちの許可まで取っているんだろうな。
「このままでいい?」
聞いてみたら否定された。
「もうちょっと地味な方が。
というよりコート来て下さい。
後、髪は隠して」
そうか。
目立つなということね。
準備すると言ってレスリーを閉め出し、キャリーケースを開けて外出着に着替える。
日本を出た時に来ていた服でいいだろう。
靴もスニーカーで。
最後にシンに電話しようと思ったけど忙しいかもしれない。
メッセージだけ送っておく。
バッグに財布とスマホを入れてコートを着込み、さて準備完了。
カードキーを抜いて部屋を出るとレスリーが誰かに電話していた。
「お待たせ」
「あ、はい。
それでは」
スマホを切ってポーチに仕舞うとレスリーが楽しげに言った。
「それではレイナ様!
行きましょう!」
元気だなあ。
日本から飛んで来てあまり時間たってないのに。
時差ボケとかないんだろうか。
そんなことを考えながらレスリーについてエントランスに行く。
レスリーがソファーに座っていた中年の男に話しかけると、その男はレイナの前に立って深く腰を折った。
「My name is Albert, and I will be your guard.」
おお、理解出来る英語だ!
アルバートさんでいいのよね?
ガードって護衛か。
レイナには無意味だけどそんなこと組織は知らないからしょうがないか。




