242.で、ここからが本筋なんだけど
するとシンはズレた話を始めた。
「魂ってもともとあるものじゃないと思うんだ。
僕が思うに人間が生まれる時にはもう肉体と共にあるけど、魂も身体と共に成長するんじゃないだろうか」
「えーと」
「だから人の魂ってその時点での身体の状態を記録というか内包しているんだと思う。
そして肉体が成長するに従って身体からの情報を魂が取り込んで、常に最新の状態の設計図を維持している」
あ、そういうことか。
「何となく判る。
つまり魂って肉体の状態に影響を受けるってことね?」
「そうそう。
理解が早いね」
そこでレイナは大聖殿にいた頃に経験した侍女の話をした。
肉体がおかしくなっていたために魂の一部が壊れていてレイナが眩しいと言っていた。
日本の空港で絡んできた女性のことも。
「なるほど。
つまり肉体の損傷が魂に反映すると」
「そう。
逆も同じで、魂が壊れると身体もおかしくなる。
だから魂を治してやれば身体も正常になると思う」
いや、そうとは限らないか。
例えば大怪我を負った状態で魂を治しても怪我はすぐには治らないだろう。
「それは置いといて、つまり人の魂はその人の肉体の最新の状況を反映していることになる。
だから回復出来ないくらいの怪我や病気を負ったら魂が壊れて死んでしまう」
「ああ、なるほど。
死ぬってそういうこと」
「寿命もそうだろうね。
聖力で身体を治せるんだったら寿命も延ばせそうだけど、それにも限界があるわけ」
そういえば大聖殿の大神官たちってみんな長生きだった。
あれは強力な聖力で自分の身体を維持していたからか。
それでもいずれは力尽きて死に至る。
あれ?
「シンや私は肉体から離れても無事だったけど」
「あれって大聖鏡に触れたことで魂が綺麗に肉体と分離させられたからだろうね。
まあ、普通の人だったらそれで死んでしまうんだけど」
「なるほど」
レイナはもちろんシンだって一般人に比べれば強力すぎる聖力の持ち主だ。
魂が強靱であるとも言える。
それはつまり、肉体に依存せずとも魂の存在を維持出来るということか。
「大聖鏡に触れた人って全員死んだって聞いたけど」
「僕らと同じように魂だけどこかに飛ばされて、聖力を消耗し尽くして消滅したんだろう。
レイナみたいに自分で自分の身体を創造してしまえる人なんか滅多にいないよ」
それはそうかもしれない。
シンの説によれば、触れた人の魂は大聖鏡に映し出されている場所に飛ばされるはずだ。
でもシンみたいに取り憑ける人がいなければ聖力を消耗してそのまま消えてしまう。
シンもそうなるところだったわけね。
よくもまあ、そんな無謀な賭けに打って出たものだ。
よほどミルガンテが嫌だったんだろうな。
レイナが納得しているとシンが言った。
「で、ここからが本筋なんだけど」
さいですか。
「聖力で身体の欠損を治したりする場合、その身体に合わせて作り直すよね?」
「そうね」
レイナも何度かやったことがある。
大聖殿にいる人は全員が聖力使いだが、もちろん強弱があってほとんどの人は身体の一部が欠損したら自分では治せない。
ラノベに出てくる回復魔法みたいな使い方は出来ても千切れた手足を生やしたりするのは無理だ。
だがレイナクラスになると出来てしまう。
だから聖女。
「それが何か?」
「例えば失った手を生やす場合、元の身体から生えるというイメージで作るよね?
いや僕には出来ないけど」
「そうなるかな」
あまり考えた事はなかった。
レイナにとっては「治す」でしかない。
でもまあ、確かに新しい腕は元の身体に合うようには作られる。
大人の身体から子供の手が生えたらおかしいし。




