240.これってラノベ?
「それでは」
レスリーが去った。
レイナは全部脱いでシャワーを浴びてからバスローブだけの姿で荷物を漁った。
モールに行ったときに買った服は軽すぎて駄目だ。
しょうがない。
せっかく持ってきたんだから一張羅で行こう。
本当はハッタリをかますためにミルガンテの大聖殿で着ていたみたいな聖女服が良かったのだが、そんなものはどこにも売ってなかった。
コスプレ衣装ならあるかもしれないが安っぽくて駄目だ。
そんなものは二度と着る機会がないだろう。
なのでレイナとしては妥協した形で上品なハーフドレスになった。
ビロードの地がなまめかしい。
もちろん肩や胸は出ていないけど、妙に色っぽいというか艶っぽい。
ナオに調べて貰った高級な服飾店で店員に見繕って貰ったもので、試着したらその店員自身が魅了されかけたほどの一品だった。
無料でいいというのをなだめすかして購入したのだが、威力がありすぎて今まで着る機会がなかった。
レスリーに観られたら気絶でもしそうだな。
まあ、そのくらいインパクトがあった方がいいかも。
ちなみにシンにも見せていない。
ちょっと楽しみなレイナだった。
姿見に自分の姿を映してみる。
まあまあではないだろうか。
正直、レイナは自分では自分がどんな風に見えているのかよく判らない。
顔立ちは整っている方だと思うけど、レスリーが叫び立てたりナオたちが褒め称えるほどとは思えない。
でも肌は綺麗なのよね。
不思議だがミルガンテにいたころはこれほどではなかった気がする。
聖力で若々しさを保つことはできるけど、それは逆に言えば聖力を抜いたら元に戻ってしまうことでもある。
でもレイナはずっとこのままだ。
お化粧というものもしたことがない。
洗髪もお風呂で普通にシャンプーとリンスを使っているだけだ。
白銀の長い髪は特に手入れもしていないのに艶があって絡まりもしない。
これって聖力のせい?
無意識に発動しているのはありそうだけど。
というわけで特に手入れをする必要がないと結論している。
身体の他の部分についても特にお手入れとかしていない。
口紅すらつけていないのだが。
準備が終わるともう、何もすることがなくなってしまった。
これから夕食だというし、何か食べることも出来ない。
ていうか避けた方がいいだろうな。
結局はテレビに逃げるレイナだった。
スマホでさっき観た映画の原作を調べて見たら、作者は世界的に有名な児童文学の巨匠で女流作家だという話だった。
20世紀初頭の作品だから映画の舞台もその時代で、まだ貴族とか豪族とかが力を持っていたみたい。
著書のいくつかは映画化されていたし、何なら日本でアニメ化もされているようだ。
さすがにそんなマニアックなアニメはアーカイヴになかったので映画を探して観てみた。
児童文学なので主人公は少年少女だ。
The Secret Gardenもそうだけど主人公やヒロインは裕福な家庭の出身だが貴族や王族ではない。
多分、作者がそうだからなんだろうな。
著作の中でもA Little Princessという作品は王女様の話かと思ったら普通のお金持ちの娘が主人公だった。
粗筋を読むと凄い既視感に襲われた。
え?
これってラノベ?
学園でヒロインが虐められてヒーローに助けられてざまぁする話?
百年以上前にラノベがあったなんて。
アーカイヴに映画があったので観てみたらまさしく悪役令嬢物? だった。
ヒロインが寄宿舎に入って最初はちやほやされるんだけど、親が破産したとかで屋根裏部屋に追いやられて虐待? される。
意地悪な同級生もいて、さあこれからと言うときにスマホに着信があった。
シンだ。
「はい?」
『タイロン氏が到着したから、とりあえず僕の部屋に来て』
「判った」
名残惜しいがテレビを切る。
日本に戻ったら続きを観よう。
さて。
姿見の前でちょっと髪を直してから部屋を出てシンのところへ。
廊下に出るとちょうど反対側からワゴンを押してきたボーイがレイナを観て硬直した。
構わず進んでシンの部屋のドアをノックする。
 




