238.ミニスカじゃないのか
というわけでレイナはレスリーと一緒にテレビに没頭した。
レスリーはあんなことを言ったけど英国テレビのコンテンツはなかなか面白かった。
高級ホテルの配信契約だけあってテレビ放送だけじゃなくてアーカイヴも見られるようになっていて、特に歴史物のプログラムが充実していた。
「英国の冬って長くて寒いですからね。
部屋に籠もって過ごすんです。
なのでテレビは主な娯楽です」
「なるほど」
英国は島国なので王朝が変わっても国境線は変わらない。
国としてはずっと昔から存続している。
大陸の方だと支配者が変わる度に別の国になったりする地方もあって、なかなか連続した歴史が続かない。
でも英国は○○朝という形で繋がっているように見えるのだとか。
「でも欧州の中では歴史が浅い方なんですよね。
ローマとかは紀元前から記録が残っているので」
「英国はないの?」
「ないですねえ。
ていうかアーサー王みたいに実在したかどうかも判らない伝説が堂々と残っていますので。
むしろそっちの方が有名ですね。
もちろんみんな実際の歴史じゃ無い事は知ってますが」
「歴史なんてそんなものじゃないの?」
レイナも日本の歴史を勉強したけど、最初? の頃はいい加減というか曖昧だった気がする。
天皇家についても初期はムニャムニャだったし。
「そういえば日本には邪馬台国とかあったよね。
知ってる?」
聞いてみた。
「知ってますけど。
あれもアーサー王みたいなものですよね」
みんな同じか。
それでもドキュメンタリーは面白いので手当たり次第に観てみた。
産業革命以降の話が多かった。
メイドという職業が発生したのもその辺りだと教えられた。
「ミニスカじゃないのか」
「あれは日本だけですよ。
メイドって他の国では単なる女中か下働きですから」
それもそうか。
英国の正統なメイドの衣装は暗色の野暮ったい服で、しかも身体中を覆うので露出しているのは顔と手首から先くらいなものらしい。
知らなかった。
「日本ってよその国の服を魔改造しますからね。
セーラー服って本当は男の軍服だって知ってました?」
「そうなの!」
男がスカート履いていたのか!
「そうじゃなくて上だけで下はズボンですけれど。
そもそもは海軍の水兵というか下っ端兵士の服だったみたいです。
あのスカーフとか大きな襟ってちゃんと理由があってああなっているんですよ」
レスリーが止まらない。
ヲタクの蘊蓄披露が始まってしまったら我慢して聴くだけだ。
面白いからいいけど。
「そうなの」
「あの襟、セーラーカラーって言うんですけれど、両端を持って手を上げると頭の後ろに布の壁が出来ますよね。
あれ、軍艦がまだ帆船だった頃には命令が水兵に生声で伝えられていたんですが、マストの先の方にいたら聞き取りにくいので集音器として使われていたそうです」
なるほど。
そう言われて見たらセーラー服の仕様って確かに独特だ。
襟が大きすぎるのはレイナも気になっていた。
そういうファッションだとばかり思っていたけどちゃんと理由があったらしい。
「スカーフは?」
「それは知らないです」
ヲタクって一部の知識には異様に詳しいけど、一歩外れると完全に無知なのよね。
まあいいけど。
そんなこんなで時々雑談しながら過ごしていたら、いつの間にか外が暗くなっていた。
もう?
「この季節は日の入りが早いんです。
まだ夕方ですね」
そうか。
確かロンドンって北海道より緯度が高いのよね。
それほど寒くないのは暖流のせいだと習った覚えがある。
何だ、夜間中学の授業って結構役に立つではないか。
緯度が高いと、つまり太陽が低くなるから日の出や日の入りが早いわけね。
 




