236.こっちにはアニメってないの?
しばらくしてレスリーが訪ねて来た。
「わあ!
いいお部屋ですね!」
第一声がそれか。
「そう?」
「私のお部屋はもっと小さいし眺めもイマイチです。
バルコニーもなくてベランダですし」
あるんならいいじゃないの。
それにしてもナオ、お金に糸目はつけてないな。
「何か飲む?」
「炭酸買ってきました」
レスリーがバッグから缶を取り出した。
本当にブレないなこの女は。
「他にもお菓子を。
といっても英国のお菓子って日本の物とは比べものにならないんですよね。
なので美味しさより珍しさを眼点に選んでみました」
次々とお菓子の袋を取り出すレスリー。
やたらにでかいバッグだと思ったらそれか。
来るのが遅かったのも買い出しに行っていたかららしい。
興味があったので食べてみる。
微妙だった。
「美味しくないわけじゃないね」
「そうなんですよね。
でも日本の物と比べたら下位互換というか」
似たようなお菓子は日本にもあるし、比べたら明らかに日本の方が美味しい。
「というよりは日本の物に慣れてしまっているからかも」
「それもそうですね。
好みもあるでしょうし」
全体的に甘みや塩気がきつすぎる気がする。
それでもないよりはマシなので一緒に食べながら映画を観ることにした。
レスリーはレイナが気づいていなかったチャンネルに合わせて言った。
「ドキュメンタリーがいいと思います。
英国のドラマや映画って多分、レイナ様の趣味に合わないんじゃないかと」
レスリーが言うには英国民にしか通じないジョークや暗喩に塗れていて、外国人が観てもよく判らないそうだ。
「そうなの?」
「はい。
私ですら半分くらいしか理解出来ないです。
私がアニメ脳だからかもしれませんが」
そういえば自称アニメヲタクだった。
「こっちにはアニメってないの?」
「あるにはあるんですが。
日本とは比べものにならないです」
そうなのか。
レスリーが力説するところでは日本は世界一のアニメ大国で、質量ともに他の国を圧倒しているとか。
まあ確かにレイナから観ても膨大過ぎる。
しかもレイナは現時点での最新作を囓ったに過ぎない。
テレビアニメは60年くらい前からあるらしいので、アニメヲタクのレスリーすら大部分は把握出来ていないそうだ。
まあいい。
ドキュメンタリーは面白かった。
レスリーが選んでくれたのは中世英国の社会を解説してくれる番組だった。
「これは?」
「ローマ帝国が衰退した後の、群雄割拠時代の社会ですね。
アーサー王とかより後ですが」
なるほど。
タイロン氏の組織が出来た頃か。
確かに予備知識として把握しておきたい時代だ。
「そういえばヴァイキングとかのコンテンツは観たけど」
「それはもっと前の時代ですね。
でもあれ、英国人はどっちかというと襲われる方じゃなくて襲撃側だったらしいですよ」
「そうなの!」
前に観た番組ではヴァイキングって北欧の民族だったはずだけど。
「まあ、海賊というか他の土地を襲撃する人の総称ですね。
北欧の正統なヴァイキングは英国なんか襲わないでもっと南の方まで出かけていたはずです」
「何で?」
「だって当時の英国って土地が痩せていて碌な獲物がなかったんですよ。
フランスとかスペインとか、下手すると地中海辺りまで出かけて行って襲っていたと聞いています」
なるほど。
 




