230.でもテレビに映っちゃったし
不意にジョギングロードが映った。
何か見覚えがある?
すると銀色の髪をなびかせた細身の女の子が走り抜けた。
撮影者が慌てたのか画像が乱れる。
慌てて跡を追うが、女の子はどんどん遠ざかって行く。
まあ、普通にジョギングしている人をカメラ構えながら追いかけるとそうなるよね。
この辺まではレイナも気づかなかった。
突然場面が変わって衣類のお店が映った。
静かに歩み出してくる細身の美少女。
白銀の髪と整った顔立ち、そしてカメラ越しでも感じられる圧迫感。
危うく吹くところだった。
……私じゃないの!
いつ撮られた?
全然気づかなかった。
画面の中の少女はスタスタと歩き、あっという間に群衆の中に消えていった。
キャスターが戻ってきて興奮した口調で何かをしゃべっていたが、レイナはもう聞いてなかった。
拙い。
あのモールに行く途中でコートのフードが脱げていたみたい。
全然気づかなかった。
だとすると私、堂々と顔と髪を晒したままモールを歩き回ったわけ?
そして撮られた。
ヤバいかも。
慌ててシンに電話する。
幸い、すぐに出てくれた。
『何?』
「さっき近くのモールに行ったんだけど」
やらかしを説明すると、意外にもシンはあっさり言った。
『別にいいんじゃない?
騒動にならなくて良かったけど』
「でもテレビに映っちゃったし」
『問題ない。
どうせいつかはバレるんだし。
でもそうか。
やっぱりレイナが素顔を晒すとそうなるなあ』
シンにため息をつかれた。
ごめんなさい。
『ま、しょうがない。
ていうかむしろ好都合かも。
タイロン氏の組織の人達も観ると思うから、こっちの権威づけになったりして』
「そうなの?」
相変わらずシンはポジティヴだ。
無責任というか楽観的というか。
『後ろ盾は多い方がいいからね。
世間の評判って奴は馬鹿にならないよ』
「ならいいけど」
しかしちょっと出歩いただけでテレビニュースに出てしまうような女は問題では?
『多分それ、ローカルテレビ局のニュースだと思うよ。
この場合、レイナが凄いんだぞというようなイメージが拡散したわけだけど局所的なものだから。
全国に広まったりはしないよ。
でも観た人はレイナが間違っても普通の女の子だとは思わないだろうね。
ひょっとしたらどっかの王族かもとか』
実際にもミルガンテならあながち間違ってないからね、とシンは笑いを堪えるような口調で言った。
人ごとだと思って(怒)。
『ま、これ以上騒ぎを大きくするのは拙いから、悪いけどホテルから出ないようにね』
「判った」
どうせ外出する気は無い。
それにしてもただ顔と髪を晒しただけであんな騒ぎになるとは。
日本ではそんなことなかったのになあ。
突然、内線電話が鳴った。
一瞬慌てたけどアニメで見たことがあったので落ち着いて受話器を取る。
『I'm sorry to bother you when you're busy. Your luggage has arrived.』
ペラペラペラと話されてパニックになった。
「once again.」
それが精一杯。
 




