229.Your Highness
ふと見ると安っぽい子供服も売られていた。
さすがに花柄のワンピースなどは着たくないからパス。
その他にも靴下を数足買ってスマホで払う。
便利だなあ。
レジの人がなぜかやたらに畏まっていたけど聖力の圧迫が酷いのかもしれない。
でも解除出来ない。
レイナも外国に来て初めての場所で初めての買物をするということで、無意識のうちに緊張している。
顔を合わせないようにしてそそくさと離れる。
店を出るとなぜか人垣が出来ていた。
半円形にレイナを取り巻いている。
思わず立ち止まると誰かが「Your Highness.」と呟く声が聞こえて、半分くらいの人がざっと引き下がった。
なぜか皆さん右腕を胸に当てている。
拙い!
とんでもない勘違いをされている?
はっと気づくとコートのフードが脱げて顔と髪が晒されていた。
モール内の空調が効いていたからつい。
慌ててフードを被り直して歩き出すと人壁が綺麗に分かれた。
小走りになりかけるのを我慢して進む。
幸いにして追いかけてくる人はいなかった。
階段を降りてゲームセンターに入り、迷路のようなゲーム機の列を縫って出鱈目に進み、最後はトイレに駆け込んで個室の便器に座り込む。
どうやら大丈夫なようだ。
ここでしばらく隠れていよう。
それにしてもフード付きのコートを着てきてよかつた。
レイナの容姿は英国でも特異みたい。
シンに言われていたのを忘れていたけど、地球の人たちは身分制度が事実上ないためにかえって貴族や王族に対する憧れが強い。
しかも英国にはリアルな王族や貴族が存在している。
現実に遭遇する可能性があるとしたら雰囲気的に露骨に貴族なレイナが間違えられても不思議ではない。
聖力の障壁も一役買っているのかも。
もう少し待った方がいいかな。
退屈なのでスマホをとりだしてメッセージをチェックする。
レスリーが乗った飛行機はグリーンランド上空を通過してスコットランドに差しかかっているらしい。
いちいち連絡してこなくても(呆)。
この分ならあと数時間でホテルに現れそうだ。
ナオからはレイナの身の回りの品をホテルに送ったとの連絡が来ていた。
どうやら遠隔操作で衣類や靴、その他の商品を購入して宅配で届けてくれるらしい。
下着もあるといいんだけど。
サリからはレイナのお部屋を掃除したという通知があった。
そんなのどうでもいいけど。
そしてリンは英国に観光旅行っていいよね、という的外れなメッセージを送ってきた。
こういう日常に触れるとほっとする。
確かにリンはレイナのお友達枠なのかも。
シンから何か言ってきていないか探したけどなかった。
まあ、同じホテルに泊まっているんだし。
もういいか。
スマホを仕舞って個室を出る。
素早くトイレから抜け出してさりげなくモールから出るとレイナは走った。
何も知らない小娘が一人で出歩くと碌な事にはならない。
やはりレイナにはまだ保護者が必要だ。
下着を入れた紙袋を抱えてジョギングロードを疾走し、ホテルに駆け込んで自分の部屋に戻ってやっと一息つく。
汗をかいてしまった。
とりあえず全部脱いでシャワーを浴びる。
戸棚には新しいバスローブが用意されていたので着込んでソファーで髪を乾かしながらテレビを観る。
あいかわらず何を言っているのか判らない。
それでも瓦礫の山が映ったりプラカードを掲げて一斉に何か叫んでいる群衆が映ったりしていて、地球の人達は今日も元気そうだ。
違うか。
喉が渇いたので部屋に備え付けのポットでコーヒーを煎れてソファーでまったりしていると画面にマイクを持ったキャスターが映った。
何か興奮してしゃべっているがさっぱり理解出来ない。
おかしいな。
高認で高校卒業程度の英語は受かったはずなんだけど。




