221.あの人がシャーロック・ホームズって人なの?
道は混んでいたけどタクシーは順調に走ってすぐに到着。
そこはお店だった。
レストラン?
「レストランパブっていうか。
テーマ店でもある」
ネオンサインには「The Sherlock Holmes」とある。
「シャロクホルメス?」
「シャーロック・ホームズというのが日本語読みね。
知らない?」
「どこかで聞いたような」
店に入ると重厚だがごく普通の料理店のようだった。
いや重厚というよりは古い?
「1階はパブだね。
同時にテーマの展示場でもある」
シンがウェイターに何か言うと2階に案内された。
不思議な構造で、見た目は高級レストランだが一部がどこかの書斎のようになっている。
「あれ!」
「蝋人形だよ(笑)」
不気味な男が座っている。
リビングみたいだがゴチャゴチャしている上にテーブルに置いてある物が全部古そうな。
混乱しながら席に着く。
なんだか落ち着かない。
他人の家のリビングを観ながら食事させるの?
シンがメニューを渡してくれたがよく判らないので「シンのと同じで」と投げた。
「まあ、こういう所で食べる飯は高い上にあまり美味しくないからね。
軽く食べてホテルで夜食を摂ろうか」
「判った」
食事が来るまでの間に説明して貰った。
何でもシャーロック・ホームズというのは世界で一番有名な私立探偵なのだそうだ。
「アニメで見た事がある。
でもあれ、犬なんじゃ」
「擬人化、じゃなくて擬犬化してあるんだよ。
本物は昔の英国の作家が書いた小説の主人公。
もちろん犬じゃない」
そうだったのか。
てっきりファンタジーだと思っていた。
だってそのアニメだと主人公も助手も敵役も警官隊もヒロインまで犬だったし。
「あの人がシャーロック・ホームズって人なの?」
リビングに坐っている不気味な蝋人形をこわごわ指さすと頷かれた。
「小説の中に主人公が住んでいる部屋の細かい描写があってね。
ここはそれを3次元で再現した部屋。
というよりはテーマルームかな」
なるほど。
テレビで見た事がある。
○ブリとか○ーミンとかのアニメの舞台を遊園地にした施設があったはず。
それどころかゲームの世界を丸ごと遊園地や遊興施設にしてしまった例もあった。
「あ!
さっきのハリー・ポッターって」
「うん。
あれも原作は小説で、映画化されて大ヒットしてテーマパークが出来ているね。
ここはその簡易版というか」
なるほど。
確かに趣味の人にとってはたまらないんだろうな。
レイナ自身はそのホームズとやらの小説は読んでいないからよく判らないけど。
しかし窓際で椅子に座ってこっちを見ている蝋人形は不気味すぎる。
夜中に暗いところで観たら思わず聖力で粉砕してしまうかもしれない。
「でもあの部屋、何か古くない?」
「原作小説の舞台は19世紀後半なんだよ。
『80日間世界一周』と同じくらいかな」
なるほど。
日本に帰ったら読んでみよう。
食事が届いたので食べて見たけど、あまり美味しいとは言えなかった。
もちろんミルガンテに比べたらマシだけど、日本の食事に比べたらイマイチ以下。
「これはちょっと」
「まあ、遊園地で出る食事ってこんなもんだから」
シンは平気で食べていた。
そういえばこの人、味には拘らないんだった。
ファミレスでも一番安いハンバーグランチばかり食べるし。
不味いカツカレーが大好きだと聞いたことがある。
ま、好みは人それぞれだし。
それでもレイナは出てきた食事を完食した。
もったいないから。




