18.働きたくないのは判る
「じゃなくて。
まあいいか。
とにかく、レイナがその気になればこういう仕事も出来るということだよ」
「やりたくない」
即答した。
そもそもレイナは目立ったり注目を集めたりすることが好きではない。
というよりは嫌いだ。
これは聖女がどうのという前に性格だと思う。
そもそも働きたくない。
かといってサボりたいわけでもないのだけれど、とにかく嫌な事はしたくなかった。
聖女は仕事じゃなくてお役目だから淡々と言われることに従っていたけれど、出来れば逃げたかった。
「働きたくないのは判る」
シンが真面目に言った。
「僕もそうだし大抵の人は同じだよ。
でもお金を稼がないと生きていけない。
あるいは誰かに従うとか」
「それは判っている」
レイナも馬鹿ではないので、働きたくないとか嫌な事はしたくないというだけでは済まないのは納得している。
でも何をしたいのか判らない。
あったとしても出来るかどうか。
「みんな嫌だけど働いているんだよね。
大抵の仕事はそうだ。
だって面倒くさくてみんなが嫌がる事だからやるとお金が貰えるわけで」
「そうなの?」
「そうだよ。
嫌じゃなくて誰でもやりたがる事だったらお金なんか払わなくてもやる人が現れるでしょ。
お金を払わないとやってくれないから仕事になるんだよ」
「そうか」
シンが言うには、例えば面白くて楽しい事だったら無給どころか自分がお金を払ってでもやりたがる人が出てくる。
そういう事は「趣味」になるから仕事ではない。
仕事になるのは辛くて苦しくて汚くて面倒くさいけど誰かがやらなければならないことだと。
「シンもそれやってるの?」
「サラリーマンはやりたくない仕事の筆頭だね。
というよりは『サラリーマン』という仕事はない。
誰かに雇われて仕事してお金を貰う人の総称だ」
「シンも雇われているの?」
「うん。
この歳だと○○システムで……まあ、それは後で。
面倒くささでは全ての仕事の中でも上位に位置する仕事だな」
「何でそんなことやってるの?」
「そりゃあ、他の仕事よりマシだから。
システム管理者は割と僕に向いていて、じゃなくて。
今はレイナの話だ」
そうだった。
「とにかく、レイナは喰っていくためには嫌な仕事をしなきゃならない……と言いたいところだけど、実はそうでもない」
シンがまた判らない事を言い出した。
「仕事しなくてもいいと?」
「それはないけど、好きだったり楽に出来たりする事を仕事にすればいいんだよ。
この人も大体はそう」
板の中で歌い続けている女性を指さすシン。
「これも仕事なのよね」
「そう。
こういうのを含めた『人を楽しませる仕事』のことを娯楽と言ってね。
例えばこの人は多分だけど望んでこの仕事をやっている」
レイナは板の中の女性を見た。
確かに楽しそうだ。
少なくとも苦しんだり暗かったりはしていない。
「楽しみながら出来る仕事もあると」
「色々だけどね。
ただ、いつも楽しいわけじゃない。
この人もここまで来るのに色々苦労したり不本意な事も我慢しなきゃならなかったはずだよ」
そういうものか。
何となくは判る。
聖女は仕事じゃなくてお役目だけど、外から見たらいつも綺麗な格好して衣食住に困らなくて、しかもお付きの人が何でもやってくれる恵まれた立場にしか見えないだろう。
でも実際は毎日が生存競争と言っていい。
それも身内から狙われている。
あんなに気苦労が多い「仕事」ってちょっとないかも。




