201.出発まであと、どれくらいあるの?
「本物のスターならそんなの無視して我が道を行くんだろうけど僕は庶民だからね。
とてもそんなに強いメンタルはない」
「そう?」
シンのメンタルは最強という気がするが。
むしろ面倒くさいことには近寄りたくないということだろう。
「ビジネスクラスのサービスも結構いいらしいし、過度に干渉してこないみたいだから」
「過度にって?」
「わざわざワゴンを押してきてワインは何を選ばれますか、とか聞いてきたり」
それは嫌だ。
なるほど。
そういうことを聞かれても困らないのは最初からそういう生活に慣れている人だけだ。
シンは根っ子が一般市民だからワインがどうとか言われてもウザいだけだろう。
「レイナはファーストが似合う気がするけどね」
「嫌」
レイナも大聖殿では最上位の身分になる予定だったから、そういう環境に慣れているとまでは言わないまでも場違いでないように振る舞う事は出来る。
だがそれは演技だし、疲れる。
レイナとて根っ子は庶民だ。
一般人としての常識は怪しいけど。
「ということで、飛行機の中でも食事や飲み物は出るし、カレーとかだったらお代わりや夜食も頼めるらしいよ。
だから空腹になることはないと思うけど、寿司とかスイーツとかはさすがに出てこないと思う。
今のうちに堪能しておいたら」
シンが誘惑してくる。
それもいいか。
「出発まであと、どれくらいあるの?」
「2時間くらいかな。
まだ余裕がある」
「判った」
ということで、レイナは再びビッフェに引き返して今まで食べていなかったメニューに挑戦した。
パスタやピザもあったし小さなコロッケやハンバーグ、クロワッサンや菓子パンなどもあった。
うどんや蕎麦、味噌汁にスープ。
本当に何でもある。
トレイに山のように食べ物を盛って席に戻ってきたレイナを見てシンが笑ったけど気にしない。
ちなみにレイナの場合、太るとかカロリーとかの問題はない。
聖力でどうにでもなる。
空腹すら解消出来るし、何なら満腹感も消してしまえる。
前にシンが「フードファイターになれば無敵だよ」と言っていたけどご免だ。
目立ちたく無い。
と言う割には大量に喰うことで目立ってしまっているのだが、レイナの容姿と大食漢のイメージが真逆なためか、あるいは聖力の「壁」のせいか、誰も近寄ってこなかった。
ただし注目は集めていた。
それに気づいたシンがさりげなく離れたがレイナは気づかず思う存分喰った。
余は満足じゃ、という台詞を時代劇か何かで聞いたなあと思いながら、最後にトレイを返してコーヒーを煎れる。
ラウンジってなかなか楽しいのではないか。
もっともレイナみたいなのが押し寄せたらラウンジ側はたまったものではないだろうけど。
「レイナ。
そろそろ」
シンが寄ってきて言った。
もう時間らしい。
「判った」
コーヒーを飲み干してから一応断ってお花畑に。
ラウンジ内のトイレは特に豪華ということはなかったが、やたらに広くて戸惑った。
後でシンに聞いたら車椅子の人もそのまま入れるようになっているからとのことだった。
知らなかった。
シンに連れられてラウンジを出て空港内を進む。
もう遅いので人影がまばらだ。
途中にあるお店もほとんど閉まっている。
「こんなに夜遅くにも便があるのね」
「最終便だからね。
夜間の発着は制限されているんだよ」
何でも空港の近くにも人が住んでいて、飛行機の騒音が迷惑になるらしい。
特に夜は音が響くので発着が禁止されているとのことだ。
「そんなの関係ない国もあるし、わざわざ海の上に空港を作って騒音問題を解消してしまったところもある。
色々だよ」
「そうなんだ」
アニメを観ているだけでは気づかないことってあるんだなあと思うレイナだった。
 




