200.そうなの
楽しみながら読んでいたら気になる項目を見つけた。
ちょうどシンがコーヒーを手にして戻って来たので聞いてみる。
「今、ラウンジの説明読んでいたんだけど」
「うん」
「ここって飲み食べ放題なのよね」
「そうだね。
ビッフェとしての規模は小さいけど、一応何でも揃っているはずだよ」
やはりそうか。
でも問題はそこではない。
「飛行機の中でもここと同じサービスを受けられると書いてあるんだけど」
無理でしょう。
飛行機がそんなに広いはずはないし、ビッフェの規模だけで飛行機全体を埋めてしまえそうだ。
シンは肩を竦めた。
「ああ、それって『何でも』の意味が違うよ。
飛行機の中でも食事や飲み物のサービスはあるんだけど、日替わりだったり便によってメニューが違う。
客はメニューを選べるけど和食か洋食かくらいだしね」
「そうなの」
つまり飛行機内にビッフェがあるわけじゃないらしい。
「つまり」
「うん。
ここのビッフェやドリンクバーにある物は飛行機の中で出るサービスの総合ってこと。
当たり前だけど飛行機内で出る食事はビッフェじゃなくてセットメニューだけど」
シンによれば、狭い飛行機の客席でも食べられるようにトレイに載ったメニューが出るそうだ。
もちろんお代わり自由というわけではない。
もっともドリンクは頼めば持ってきてくれるとか。
「僕は今までエコノミークラスにしか乗ったこと無いからね。
ビジネスクラスやファーストクラスのメニューは凄いと聞いたことがある」
「凄いって?」
「レストラン並にキャビンアテンダントさんがサービスしてくれるらしい。
あ、この場合はファミレスのウェイトレスさんじゃなくて、ちゃんとしたレストランね」
なるほど。
最近のファミレスはウェイトレスさんが客に近寄らなかったり、そもそも出てこなかったりする。
先進的? な場所ではロボットが食事を運んできたりして。
こないだシンに連れられて行ったステーキハウスではウェイターどころか執事さんと言えそうな人がサービスしてくれていた。
あそこまではいかないとは思うけど、何となくイメージは判る。
「私たちの席って」
「ビジネスクラスだね。
ナオさんに取って貰ったんだけど、僕の方からファーストクラスは止めてと言っておいた」
「そうなの」
ファーストクラスって最上位の席だったっけ。
前にコミックで読んだけど、お値段がもの凄く高いらしい。
でもシンの今の財力なら大したことないような気がする。
「そうじゃなくて、ファーストって客の方にも『格』が要求されるらしいんだよ。
ほら、上流階級の人のお付き合いや食事って面倒くさいでしょ。
ああいう感じ」
「判る」
確かにそうだ。
レイナも聖女候補ということで、将来的には王侯貴族との付き合いや会食などもしなければならないと言われていた。
そのためにややこしくて面倒くさいだけの礼儀を叩き込まれたのだが、あんなのやりながら食事したくないのは判る。
「もちろん、そんな礼儀は無視してもいいんだけど、間違いなく軽蔑されるからね。
ロックスターとかなら許されるけど」
「そうなの」
シンによればお金持ちの人が必ずしも礼儀を心得ているとは限らないそうだ。
ロックスターという存在は知らないが、例えば貧乏家庭で育って頑張ってスターになり、若くして大金持ちになってしまったような人がいるとする。
礼儀なんか習う暇もその気もないし、お金持ちな上にスターだから周りの人はその人が何をやっても文句なんか言わない。
その結果としてTPOを弁えない性格になってしまった人は、どこでも気ままに振る舞って顰蹙を買う。
もちろん表には出ないが。
 




