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異世界の聖女は何をする?  作者: 笛伊豆
第十五章 聖女、日本を離れる
211/350

幕間11

「完治しています」

 頭部のCTスキャンとMRI画像を巨大なディスプレイ画面に映しながら医者が言った。

「……は?」

「前回の検査で確認されたcancer(腫瘍)が完全に消えています。

 痕跡すらありません」

 あくまで無表情に言い放つ医者。

 世界的に有名な癌専門科医である東洋系のアメリカ人医師は次々に画像を映し出して解説してくれた。

 日本語で。

 さすがは世界的に有名な医者だ(違)。

 時々専門の英単語が混じるが何とか判る。

「予め送って頂いたカルテによればDiencephalon……間脳といって目の奥の方にある脳の一部ですが、そこのThalamus(視床)と呼ばれる部分にcancer(腫瘍)が認められました。

 継続検査記録を見る限りでは時間経過と共に成長していることが確認出来ていたのですが」

「はあ」

「お嬢さんの場合、cancer(腫瘍)が神経を圧迫していたために色々と症状が出ていたはずです。

 が、今はどうですか?」

「そういえば身体が麻痺するとか痛むとかなくなりました。

 あの、これって」

「はい。

 cancer(腫瘍)が消えたために症状も解消されたわけですね」

 冷泉院鹿子は親と並んでぽかんとして医者を見つめた。

 身体の調子がおかしいな、と気がついたのは2年前。

 大学3年に進級したばかりの時だった。

 手足が思ったように動かない。

 時々痺れる。

 不意に酷い頭痛が襲ってきて寝込んでしまう。

 そんなことが続いたため、心配した親に付き添われて病院に行ったところ、そのまま精密検査に回された。

 2日間の検査入院後、親と一緒に聞かされた診断結果は「脳腫瘍」。

 まだ初期だが既に日常生活に影響が出始めている。

 すぐに入院するほどではないけれど、今後は判らない。

「それで治療は」

「お嬢様の場合、腫瘍があるのは間脳の一部である視床下部です。

 簡単に言えば脳の中心部ですね。

 正直言いますと手術のしようがありません」

「……!」

 親子共々、茫然自失のまま帰宅して調べてみた。

 脳腫瘍の発生原因は色々だし出来る部位もさまざまだ。

 例えば大脳に出来た腫瘍は荒技だが頭部を切って頭蓋骨を切り取り、そこからメスを入れて腫瘍を切除するというような手術も不可能ではない。

 ただし成功率は低い。

 レーザーメスや超音波による腫瘍除去も出来ないことはないし、条件次第だが治療も一応は可能だ。

 だが、これが間脳となると話は変わる。

 脳の中心にまでメスを入れたりレーダーで焼き切ったり出来るわけがない。

 というよりは、やったら患者は確実に死ぬ。

 よほど運が良くても全身麻痺やロボトミー手術を受けたみたいになってしまう。

 かといって抗癌剤なども使えない。

 腫瘍と一緒に脳の神経細胞も死滅してしまう。

 八方塞がり。

 とりあえず経過観察ということで、鹿子は大学に在学のまま定期的な検査を受けることになった。

 身体が麻痺したり頭痛が起こった時の為に緊急連絡用のスマホや鎮痛剤を常備しながらだったが、何とか大学を卒業。

 ただ当然ながら就職など考えられない。

 その頃には身体の一部が常に麻痺しているような状態で自宅療養を余儀なくされた。

 定期的に受けるCTスキャンやMRI検査では腫瘍がゆっくりとだが確実に拡大していることが示された。

 もちろん鹿子の親はあらゆる手を尽くしてくれた。

 全国の有名な癌専門医師に連絡をとって診察して貰ったり、先進的な癌治療を試みている学会の医師を紹介して貰ったり。

 だが徒労だった。

 治療法がない。

 鹿子は既に諦めて言われるままに従うだけになってしまっていた。

 良いことと言えば、高校時代から押し込まれるように届いていた多数の婚姻申し込みがなくなったことくらいで。

 鹿子は古くは皇族の血を引くお嬢様であるだけではなく、政財界に隠然たる力を未だに維持している冷泉院家の一人娘だったから、幼い頃から婿を取るための結婚は覚悟していたんだけど。

 病持ちの娘の家に入り婿するなんて、あまりにも野心剥き出しで反感を買うだけだ。

 だから安心していたのだが。

「……す、すると娘は!」

「はい。

 理由は不明ですがComplete recovery……完治しています。

 今後もContinuing Inspection……継続検査は必要ですが、まず問題ないでしょう」

「……ありがとうございます!」

 いや、この医者が治したわけじゃないのでは?

 思わず心の中で突っ込んでしまう。

 それにしても。

 日本国内では万策尽きてしまって、世界的に有名なアメリカの癌専門医師を頼って家族で渡米したら治っていたなんて。

 これは、やはりあれなのではないか。

 日本の空港のラウンジで出会ったこの世の者とも思えないほど綺麗な少女。

 親が目を離している隙に、遠くからでも感じられるくらい眩い光を放つその存在にフラフラと引き寄せられるように近づいてしまった。

 そばに立つと、もう目を開けていられないくらい凄まじい光で。

 それから何があったのかよく覚えていない。

 気がついたら両親の側にいた。

 何かして頂いた気はするのだが。

 ひょっとしてあの方は。

 天使、いや女神?

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コレで容姿をはっきり覚えられてたら 再会あるかな
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