196.どこに向かってるの?
「安全なの?」
荷物から目を離しても大丈夫なのかどうか聞いたつもりだったがシンは別の意味に取った。
「爆弾とか仕込まれていたら拙いからね。
X線透過装置なんかで危険物がないかどうかチェックすると思う。
機内持ち込みの荷物はまた別にチェックされるから。
何かヤバいもの入れてないよね?」
「ない」
肩掛けバッグにはスマホに財布、それにパスポートくらいしか入っていない。
もっともネットで調べたので最低限の生理用品なども入れておいた。
それを言ったらシンが頷いた。
「そうだね。
僕は男だからよく判らないけど、旅客機にもそういう物はあると思う。
ビジネスクラスなら大丈夫なんじゃないかな」
「ネットだとそれでも万一を考えて、と」
「いいことだ。
用心に越したことはないからね」
会話しながら歩いているとこの建物の広さが判ってきた。
歩いても歩いても終わらない。
こんなに広い建物は初めてだ。
「どこに向かってるの?」
「ラウンジだけど、なぜか別の建物にあるらしいんだよなあ。
不親切というか」
シンは結構大きな肩掛けバッグを担いでいて重そうだ。
仕事に必要なパソコンとかが入っているのかもしれない。
「もうちょっとだから」
そう言われてすぐに入れるのかと思ったら、まず出国手続きをしなければならないそうだ。
「僕たちが使うラウンジは発着エリア内にあるからね。
まず日本からの出国をする」
「どういうこと?」
列に並びながらシンが簡単に説明してくれたところによれば、日本に限らず国際線の航空機に乗る時には事前に今いる国から出ていく必要があるらしい。
「つまり、この先は日本じゃ無いと」
「そう。
飛行機内で手続きとか面倒でしょ。
だから乗る前にやっておく」
外国に行くためには住んでいる国からの出国手続きと、到着した国の入国手続きが必要だそうだ。
なので飛行機に乗る前に日本国を出ておく。
「なるほど」
まず室内なのに門のようになっている場所で荷物検査があった。
レイナがバッグを置くとベルトコンベアで運ばれていく。
レイナ自身は指示されて門をそのまま通り抜けようとしたらブザーが鳴った。
「何?」
「何か金属製の物を持ってない?」
後ろのシンに言われて気がついてジーンズのベルトを外す。
ベルトをコンベアに置いてもう一度門をくぐったが、今度はブザーは鳴らなかった。
大きな箱を通り抜けたバッグとベルトが流れて来たので回収する。
「これでいいの?」
「いいよ」
続いて出国手続きだ。
簡単だった。
パスポートを係員に渡すだけだった。
レイナの場合、国籍は日本なので日本のパスポートなのだが容姿はどうみても白人だ。
だが係員は淡々と処理した。
パスポートをスキャナに読ませて出国スタンプを押す。
待っているとシンも無事に通り抜けてきた。
「よし。
これで僕たちは日本から出たことになる」
「つまりここはもう日本じゃ無いの?」
「手続き上はね」
レイナにはよく判らないけどシンがそう言うのならそうなんだろう。
日本じゃないと言われても区別がつかないんだけど。
「じゃあラウンジに行こうか。
すぐだから」
そう言われてからも五分くらい歩いてやっとたどり着いたその場所は雰囲気が違った。
豪華ではないけど上品?
例によってシンがカウンターでスマホを示すと受付についている制服の女性が「いらっしゃいませ」と言ってドアを開けてくれた。
なるほど、ここで入室資格があるかどうかをチェックされるわけね。