16.ああ、スカウトだね。
「私がそれに似ていると?」
「何というか、この国では貴族がいない分、外国の貴族に憧れみたいなものがあってね。
それもレイナみたいな姿の令嬢に人気がある。
それにレイナは動作が綺麗だからね。
雰囲気もとても一般人に見えないし」
よく判らないけど褒められているのだろうか。
レイナとしてはあまり注目を集めたくはないんだけど。
ふと窓の外を見ると果てしもなく高い建物が並んでいた。
凄い世界だと思う。
ここでやっていけるだろうか。
いや、やっていくしかないんだけれど。
さりげなくて辺りを見回してみたら、まだ注目されていた。
特に男性がレイナをチラチラ見ていて同席の女性に怒られたりしているようだ。
聖力で何とかしようかと思って自重する。
私に実害はないからいいか。
コーヒーを啜りながらシンと雑談していたら、突然声がかかった。
「○○○、○○○○○」
テーブルの側にきっちりとした格好の女性が立っていた。
「○○?」
「○○○、○○○○○。
○○○○○○○○○○」
シンとその女性がレイナには判らない言葉で会話している。
レイナは黙ってコーヒーを啜った。
飲み食いは言葉が判らなくても大丈夫なのは助かる。
突然、女性がレイナの方を向いて何か言った。
「ごめんなさい。
判らないんです」
思わずミルガンテ語で応えてしまうと女性は目をばちくりさせた。
「○○○○○」
「○○○○○○○、○○○」
シンと女性がまた話して、それから女性は小さな四角い紙を渡して去って行った。
「……何だったの?」
「ん?
ああ、スカウトだね。
レイナが売れそうだから売り出したいと」
「私、売られるの?!」
ぞっとした。
ミルガンテでは人身売買は一応禁止されていたが、実際には半ば公然と行われていると教えられた。
特に貧しい階層では子供を売るのは当たり前というか、むしろ社会活動の一環と言っていい。
それによって残された家族は助かるし、売られた方もとりあえず食い扶持は自分で稼げるようになる。
そもそも神官見習い自体がほぼ人買いだ。
シンの家族にも多額の報奨金が支払われたはずだ。
「いや、売るってそういう意味じゃなくてね(笑)。
長くなるから続きは帰ってからにしようか」
シンによれば、このままだと次から次へとあの女性のような人が押しかけて来るらしい。
レイナにも需要があるということか。
「私、必要とされているの?」
「何というか。
その気になったら凄い事になる気はするけどね。
どっちにしてもレイナが決めることだし、今の状態では訳が判らないだけでしょ。
もっと色々理解してから決めればいいよ」
それはそうだ。
つまりシンは時間をくれるわけか。
少なくともレイナが独り立ち出来るまでは世話して貰えると。
でも負担にはならないんだろうか。
後で聞いてみよう。




