175.だから私、決めたんだ
いやいや。
それなのになんで冷静?
「身の程を知ったということかな」
リンはサバサバした口調で言った。
「何だかんだ言って、私以外のみんなって凄いよね。
ナオなんか夜間中学に通いながら自力で一流のホステスやっていたし、それをあっさり辞めて秘書の学校に行って資格取ったんでしょ。
サリだって色々バイトして何でも出来る上に、自分で働いて生活費を稼いでいるだけじゃなくて高認とって大学にまで行こうとしている。
私にはとても真似出来ない」
「人はそれぞれ違うから」
レイナが言いかけるとリンは手を振った。
「そういう意味じゃなくて、積極的に人生を切り開いているってこと。
私みたいな流されて落ちこぼれてから必死で足掻いている奴とは違う。
違うと言えばレイナとレスリーは元々こっち側の人じゃないよね」
曖昧な表現だが意味は判る。
レスリーはともかくレイナはリンとは別世界の住民だ。
ミルガンテの聖女候補だったという意味ではなく、社会における立ち位置がそもそもまったく違う。
おそらく普通だったら一生関係しない二人だろう。
「レスリーの目的も何となく判るんだけど、それって生まれ育ちとは別の話だよね。
そうできるだけの実績を積んできたんでしょ?」
「いえ、私は」
「あ、いいのいいの。
私が勝手に思い込んでいるだけだから。
というわけで、今のままの私はみんなについていくことは出来ないって判ったんだ」
リンの中ではもう結論が出ているようだ。
ならばレイナが何か言うことはむしろ僭越か。
そう思った途端、リンががらっと口調を変えた。
「だから私、決めたんだ」
「決めたって何を?」
「私もシンさんの会社に入る!」
ない胸を張るリン。
え?
何か言ってることが全然違ってない?
「ですが今のリンさんでは」
「そう!
だからとりあえずチャレンジする!
レイナ、シンさんと会いたいんだけどコンタクトとってくれる?」
何だろうこの痛さは。
ひょっとしたらこれがサリの言う「リンの強さ」なのかも。
「いいけど……どうするの?」
「就職活動!」
いやそれ、無謀すぎるのでは。
何とか思いとどまらせようと思ったけど今のリンのハイテンションには勝てない気がする。
ええいままよ。
こうなったらシンには悪いけど引導を渡して貰おう。
レイナはその場でシンに電話した。
幸いファミレスはガラガラで他人に話を聞かれる心配はなさそう。
『はい?』
「あ、シン。
その、もの凄く言いにくいんだけど」
『何?
レイナの頼みなら極力協力するよ?』
相変わらずシンはレイナに甘い。
何か指針でもあるのかもしれない。
レイナはふんぞり返っているリンを横目で見ながら話した。
リンがシンの会社に就職を希望しているので面談して欲しいと。
駄目、という返事を確信していたらシンは軽く言った。
『いいよ。
今どこにいるの?』
いいの?!
チョロすぎというよりはフットワークが軽すぎない?
「学校の近くのファミレスだけど」
『地図ある?』
「送った」
『今は午後9時半か。
うん判った。
30分くらいで行くから待ってて』
 




