171.私だって働ける
「英国には私とシンだけで行くの?」
「……そうだね。
レスリーさんは付いてきそうだけど」
「それはしょうがない」
ナオとサリは何も言わない。
もう知っているらしい。
後方支援と言っていたっけ。
日本での体制を維持する役目なんだろうな。
そこまで決まっているのならレイナがこれ以上何か言う必要はない。
あ、そういえば。
「リンはどうするの?」
これはシンではなくてナオとサリに向けた質問だが、二人とも暗い表情になった。
「それな。
ここで放り出すというのも非人間的なんだが」
「かといって巻き込むというのもね。
私とサリは覚悟が出来ているけど、リンって本当ならまだ高校生だから」
難しいところだろう。
安定した人生を送りたいのならここでレイナたちときっぱり縁を切るというのが正解だろうけれど、そうなったらリンの心に大きな傷跡を残しそう。
「そういえばリン、夜間中学はこの3月で辞めるって言ってた」
「そうだろうなあ。
私やナオどころかレイナやレスリーまで消えたところにいても仕方がないだろうし。
そもそもあいつ、3年目だろ」
「それで進路は?」
「まだ決まってないって」
「まだって、もうあまり時間がないぞ?」
「それは本人も判っていると思うけど」
みんな黙ってしまった。
結局は本人の問題だから、部外者のレイナたちが何を言っても意味がないとも言える。
「……まあ、出来るだけ相談には乗るということで」
「そうね」
話題を打ち切る。
それからはシンの会社の運営体制の話になった。
レイナには直接関係はないが、まったく無知のままでいるのも何かあった時が問題だ。
「レイナも成人したら名前だけでも入社すればいいよ。
無職よりは言い訳が効く」
シンが失礼なことを言うが、確かにレイナの将来は空白だ。
そもそも就職する必要すらないのだが、この社会では立場や身分がないと何かと面倒なことは判る。
「今は僕が保護者ということになっているけど、それでは一人前とは言えないからね。
形だけでもちゃんと働いていることにした方がいい」
「レイナが働いている状況って想像出来ないんですが」
サリが失礼なことを言った。
「酷い」
「いや、レイナってどうみても命令する側でしょう。
というよりは君臨する側か」
「確かに。
いるだけで充分というか。
というよりは黙って坐っているだけで平伏する人が続出しそう」
サリもナオもシンの前だというのに言いたい放題だ。
シンがまた苦笑するだけで止めようともしない。
アットホームな職場なのか。
「私だって働ける」
「何するの?」
うっと詰まった。
何すればいいんだろうか。
ナンバーズや宝くじの番号合わせは労働とは言えない気がする。
というよりあれ、非合法なのでは。
いや「聖力を使って現実を改変してはならない」という法律がないから非合法とは言えないか。
合法でもないけど。
それについては前にシンと議論になったことがある。
聖力で賭事の結果を左右するというのはイカサマなんじゃないだろうか。
するとシンは真面目腐って言った。
「これは世界中共通なんだけど、いわゆる超能力とか超常現象って法的には認められていないんだよね」
 




