15.よく似合っているよ
ますます強くしがみつくレイナに閉口しながらもシンは巨大な建物の中にあった色々な店で色々と購入してくれた。
見たこともないような色とりどりの大量の服や小物が並ぶ店では上から下まで着替えさせられた。
その際、お仕着せを着た店員にシンが叱られていたのが不思議だった。
「何て言われていたの?」
「いや、こんな可愛いお嬢さんに全然似合わない男物の服を着せるとは何事かって。
反論出来なくて思わず謝ってしまった」
それは違うのではないのか。
シンは男だから男物の服しか持ってないし、レイナもまさかミルガンテの聖女姿で外出するわけにもいかない。
「まあ、上手く揃えてくれたからいいよ。
これでやっとレイナも普通に見える。
目立ち過ぎるのは変わらないけど」
巨大な姿見に映った自分の姿にそんなものかな、と思う。
すっきりしたワンピースはまだ発展途上のレイナの身体を優しく包み、髪の毛はまとめて丸い帽子に仕舞われている。
膝から下が剥き出しなのが頼りないが、柔らかい靴はぴったり合って履きやすい。
どういう仕組みなのか靴底に弾力があって歩くと少し弾む。
文明の発達とはこういうことか。
小物ひとつをとってもミルガンテとは段違いの洗練を感じる。
「よく似合っているよ」
「そうかしら」
「うん。
異世界の聖女じゃなくて外国の貴族令嬢くらいには馴染んでいる」
色々言われてもピンとこない。
ミルガンテではレイナはまず聖女候補であり、それ以外の何物でもなかった。
容姿をどうのこうの言われたことはない。
畏怖されていただけだ。
あまりにも大きすぎる聖力のせいで、半ば人外扱いされていた。
「よく判らないけど足がスースーする」
「うーん、ミルガンテの基準で言うとスカートが短すぎるからなあ。
こっちの基準ではロングなんだけど」
レイナが履かされているスカートは裾が膝下辺りまでしかなくて、脹ら脛が丸見えだ。
ミルガンテだったら痴女扱いされても不思議じゃない。
「これでも?」
「周りを見てごらん。
そんなの大人しい方だ」
確かに道行く人の大半は身体の各部分を剥き出しにしていた。
特に若い女性は太ももや肩まで露出した服装が多い。
「寒くないのかしら」
「さあ。
僕もよく知らないけど、水が凍るような気温でも足を剥き出しにしている女性も多いらしいよ」
それはきっと聖力で身体を温めているのでは。
つい思ってしまったけど口には出さなかった。
それからシンはこの建物の一番上にあるらしいお店に連れて行ってくれた。
壁一面が透明なガラスで出来た、とてつもなく高価そうな内装の店だった。
窓際の席に案内される。
「普通は僕なんか追い払われるんだけどな。
君のおかげかな」
シンによれば、窓際は重要人物専用なので、普通ならシンのような庶民は店側に断られるのだそうだ。
「シンはセレブじゃないの?」
「とんでもない。
でもレイナはどうみても庶民じゃないからね。
僕の方はお付きとでも思われたんじゃないかな」
よく判らない。
「気づいてないみたいだけど、レイナの礼儀って凄いよ。
動きに品があるし立っても坐っても姿勢が綺麗だ。
一目で上流階級のお嬢様だと判る。
聖女教育のたまもの?」
「聖女らしさは叩き込まれたから。
結構厳しかった」
「うーん、まぁ聖女は広告塔みたいなものだからなあ。
どこぞの小娘に見えたら拙いとか」
シンによればレイナはこっちの世界での貴族令嬢に見えるのだそうだ。
少なくとも一般人ではなさそうだと。
「こっちにも貴族っているの?」
「いるというか、実際には僕も直接会ったりした事無いけどね。
漫画とかアニメとか……ええと、物語や娯楽にはよく出てくるんだよ。
だからみんな実際には見た事無いけど概念だけは広まっている」
「ああ、童話みたいなものね」
納得した。
レイナも幼児の頃は絵本の類いで字を覚えたのだが、ミルガンテに伝わる英雄談や偉い人達の物語が語られていて、その中には王族や貴族が出てくるものもあった。
現在のミルガンテは大聖殿の権威が広まっているが、それとは別に王家や貴族家もあって当然ながら王子様や貴族令嬢も存在する。
見たことはないが。




