168.登記は済みました。
レイナはいつもと違う食事にちょっと期待してしまった。
お重、いやお弁当?
確か重箱弁当というのだったっけ。
黒塗りの大きな平たい木箱に食材が入っているらしい。
前にアニメで見た事があるような。
お正月とかで、大広間で会食する時に出てくる和食の宴会ご飯だった?
ナオが作ったお吸い物やお茶も配膳されて準備が整うと全員が着席した。
ここはナオもサリも同席らしい。
「それでは」
シンが言った。
「まずは食事しようか。
話は後で」
「判った」
蓋を開けるとそこにあったのは芸術品だった。
本物の幕の内弁当ってこうなのか。
ペラペラのプラスチック容器に入っているものとは大違いだ。
レイナは和食はあまり食べないのだが、だからといって嫌いとか苦手というわけではない。
大きな肉の塊とかには惹かれるけど和食のチマチマした食材も好物だ。
レイナが夢中で食べている間にもシンたちは話合っていた。
「どう?
落ち着いた?」
「はい。
オフィスはいつでも稼働出来ます」
「登記は済みました。
でもいいんですか?
居心地が良すぎて帰宅したくないくらいで」
「いいんだよ。
我が社は従業員の福祉を重視する方針だから」
どうもシンの会社のことのようだ。
つい口を挟んでしまった。
「何の話?」
シンに代わってサリが言った。
「シンさんの……じゃなくて私達の会社のオフィスを開いたんだ。
私達がシンさんの家に出勤するわけにはいかないだろ?」
「シンさんじゃなくて社長と呼びなさい」
ナオが叱る。
「いいじゃんか。
ここだけだよ」
「けじめです」
性格が出ている。
ナオはあくまで真面目でサリはいい加減か。
もっとも本番になれば二人とも役に徹することが出来るはずだ。
それにしてもナオはまだしも何でサリまで。
そういえば前に二人がシンの会社に入ったと聞いたっけ。
ナオは確か秘書だと言っていたけどサリはどういう役目なんだろう?
食事が終わるとナオとサリがお膳やお吸い物を片付け、コーヒーが出た。
流れるような手順だった。
ナオは客商売していたから判るけど、サリって本当に何者なんだろうか。
「ということで」
シンが言った。
「レイナの疑問に応えることにするよ。
何でも聞いて」
いきなり放り出された。
まあいいか。
「じゃあまず、ナオとサリの立場は?」
「私は『有限会社シン・インベストメント』の秘書室長です。
これを」
ナオが差し出してきた名刺を受け取る。
何かかっこいいけどシンプルなデザインの名刺だった。
「『シン・インベストメント』って?」
「僕の会社。
面倒くさいから適当に決めた」
「investmentは投資の意味だな。
つまりシンさんの投資会社というストレートな名前だ」
ストレート過ぎるのではと思ったけど別に文句はない。
ていうかどうでもいい。




