153.進路とか決めた?
そもそもまともで平穏な人生を送りたいのならレイナなんかに関わっては駄目だろう。
何が起こるか判らないんだし。
レイナとしては、自分自身ならたとえ身体が粉砕されても復活出来るけど他人は無理だ。
破壊された人体を修復するくらいは可能だとしても、怪我の程度によってはショックで死んでしまう。
魂が抜けた肉体を元通りにしても人は生き返らない。
そういう意味ではシンなら大丈夫かもしれない。
聖力持ちなら肉体が損傷しても魂が無事なら生き返れる。
もっとも回復出来てのことだけど。
でもシンの身体が壊されたらレイナが修理してあげられるから。
シンの場合、大聖殿で大聖鏡に飛び込んで地球に転移して魂だけになっても平然としていたくらい腹が坐っている。
だから肉体が死んでもしばらくは生存出来るはずだ。
それならレイナが何とか出来る。
『このくらいでいい?』
「判った」
電話を切る。
リンのことは心配だが、レイナにはどうしようもない。
なるようになるだろう。
翌日から平穏な毎日に戻った。
レスリーも一日休んだだけで復帰してきた。
とはいえもうすぐ年度末なので夜間中学も何となく緩んだ雰囲気だ。
授業もほぼ自習になってしまって、丹下先生はクラスのみんなとの面談で忙しそうだった。
夜間中学にはただ卒業しておしまいという生徒はあまりいない。
学校側としてはアフターケアの方がむしろ重要かもしれない。
放り出されて闇落ちでもされたら評判に関わる。
「レスリーは何か言われた?」
聞いてみた。
「来年度はどうするのか聞かれたのでやめますと答えました」
「それもそうか」
レイナも「卒業」することを伝えてあるから、当然レスリーもついてくる気だろう。
どこに行くかは別として。
「リンは?」
聞きにくいことだけど黙っているよりはとぶつけてみる。
「私もやめるよ。
レイナもレスリーもいないのに私だけ残ってもね」
「そういえばサリさんは?」
「当然やめる」
すると仲間はみんな一気にいなくなってしまうわけか。
丹下先生の顔が何となく明るいのはそのせいかも。
「リンはフリースクールとか行くの?」
「いんにゃ。
浪人して高認受ける。
受かったら大学に行く」
リンもブレない。
「進路とか決めた?」
大学には色々と専攻があって、普通は将来やりたいこととか、あるいは就職に有利な学科に進むはずだ。
そういうコミック読んだし。
「全然。
まぁそのうち決まるだろうし」
「いいのそんなので」
「みんなそんなもんでしょ。
私が今更いくら頑張っても医学部とかは無理だしね」
それはそうだ。
高認に何度も落ちている学力では一流大学を目指すのは無謀だろう。
「大学は行けるんだ」
「親に了解とってある。
高校まではどうでもいいけど大学は出ろと言われているし」
今更ながらぶっ飛んだ親だ。
娘の将来が心配じゃないんだろうか。
それを聞いたらリンは開き直ったように打ち明けた。
「前に突っ込んで話し合ったんだけれどね。
私の両親って若い頃はそれぞれ真面目に将来を考えて頑張っていたんだって。
でも本人とは関係ないところで色々あって、結局目標とは関係ない仕事についたそうなのよね。
で、後から考えてみたら最初の目標は無謀な上に無理だと判ったって」
「若気の至りという奴ですか」
レスリーが物知り顔で口を挟んだ。
「そんなもんかな。
親が言うには子供の頃に考えていたような将来は絶対に来ないから、むしろ好きに生きていれば自動的に自分に合った道に進むことになるんだって。
なるほど、と」




