13.そんな聖女はすぐに始末されるから
シンが? な表情を見せたので説明する。
聖女教育でその辺りは叩き込まれた。
「聖力は何でも出来るけど、それは自分がやり方を知っているとか、見本があるとかのものに限られるの。
例えば山を吹き飛ばしたり海を干上がらせたりって、実際の山や海を知っていたら想像出来るでしょ?
だから可能」
「吹き飛ばさないでくれよ……」
「例えだって。
でも『言葉を覚える』って何をどうすればいいの?
誰かとお話ししているところは想像出来ても、どんな話をしているのか判らないでしょう。
無理に合わせれば出来るかもしれないけど、それって正確かどうか判らないし」
「……なるほど。
精神面は無理だと」
「だから出来るとは思うけど、ちょっと間違えたら自分も相手も頭がおかしくなるかもしれない」
人の心は聖力では動かせない。
無理矢理従わせることは出来てもすぐに破綻する。
聖女として気をつけなければならないと教えられた。
「そうかあ」
「だから私、地道に覚えることにする」
シンは感心したようにレイナを見た。
「意外。
聖女様ってもっと傲慢だと思っていた」
「そんな聖女はすぐに始末されるから」
命がけだったのだ。
レイナは幸いにして今まで生き延びてこられたけど、年端もいかないうちに始末された聖女候補がどれだけいたか判らない。
その恐怖はこの身に染みついている。
「よしわかった。
じゃあ、色々買いに行こうか」
シンが簡単に言った。
「ちょっと待って。
シンって、ああ今のシンだけど、仕事しているとか言ってなかった?
サラリーマンだったっけ」
「大丈夫。
今日は3連休の初日なんだよ。
その時点を狙って転移したから」
3連休って。
「ちょっと待って!
仕事にお休みがあるの?」
思わず叫んだらげんなりした表情で言われた。
「うん、ミルガンテの常識だと信じられないよね。
こっちの世界は人権意識が進んでいるから、どんな労働者でも一定の休日が与えられることになっているんだ。
ていうか法律で決まっていて」
唖然としてしまった。
仕事って休めるものなの?
そんなの年に一度とかじゃなくて?
「その辺りの『常識』もゆっくり覚えていけばいいよ。
当面は僕が君の世話をするから」
さらっと言われたけど。
「いいの?
私、勝手についてきちゃったんだし」
「いやいや、僕の責任は大きいと思うし。
それに今の状態で君を野放しにしたらそれこそ怖くて眠れなくなりそうで」
黙ってしまった。
確かにここで聖女を放り出したらどんなことになるのか判らない。
レイナにしても監視がなくなったら箍が外れてやらかすかもしれないし。
「……よろしくお願いします」
しばらくはシンの厄介になることに決まったのだった。
レイナはそれからもう少しマシな服に着替えてシンに連れられて外出した。
観る物聞く物すべてが珍しかった。
思わずシンにすがりついてしまった。
「ちょっと手を握ってて。
一人で居ると何かどこかに墜ちていきそうで」
「判る」
手をつないだまま道を歩き、広い通りを進むと巨大な建物が並んでいた。
大聖殿にはおよばないが高さは遙かに超える。
よほど重要な聖地なのだろうか。
「ここ?
単なる地方都市、までいかないか。
街だよ。
居留地かな」
「こんなに人がいるのに?」
「少ない方だよ。
この国の人口は一億人を超えてる。
世界全体だと今なら70億人くらいかな」




