11.本物の……風景?
「……出来るの?」
「出来る。
僕も偶然知ったんだけどね。
聖力でイメージを送り込んでやると、その風景が映る」
「大発見じゃない!
あれ?
でもそんなに簡単なら」
「うん。
これまでにも気づいた人がいなかったはずがないんだけどね。
でも、だから何がどうなるわけでもないでしょ」
シンはケロリと言った。
「映像が映っても何も出来ないと」
「そう。
何せ大聖鏡に触れたら死んじゃうんだから手の出しようがない。
それによほど正確なイメージじゃないと出てこないから」
「そうなの?」
「普通の人って昔の事をそんなにはっきりと覚えていないからね。
覚えていたとしてもわざわざ映し出す動機がないし」
それはそうかもしれない。
レイナの場合は特殊だけど、過去の周りの風景ってはっきり覚えていられるはずがない。
「でもそれだけじゃあ」
「僕はそれに気づいてから暇があると前世の事を思い出してはイメージを大聖鏡に送り込んでは見ていたんだ。
そして気がついた。
ひょっとしてこれ、思い出じゃなくて本物の風景なんじゃないかって」
さりげなく爆弾宣言を放つシン。
「本物の……風景?」
「うん。
というのはあまりにも正確だったから。
だって人間が覚えているイメージってそんなにはっきりしてないでしょ。
中心はともかく周囲はぼんやりしたりいい加減だったりするはずなんだよ。
でも映し出された光景は僕が覚えていないところまで正確に再現されていた。
だから」
「本物だ、と」
「そう。
しかもその風景、時系列に左右されない。
未来はともかくどんな過去でも思いのままだ」
「……思い出ならそうだと思うけど」
「だろ?
でも聖教の始祖の話から考えると、どうもミルガンテと異世界の時間の流れは必ずしも並行していないんじゃないかと」
シンの話では、そもそもミルガンテで普通に使われている道具や概念がシンの前世の世界に酷似しているのが変なのだそうだ。
レイナが当たり前に使っていたトイレやベッドのマットレスなど、本来ならミルガンテ程度の文明では作れそうにもない高度な文明の産物なのだという。
「レイナは知らないだろうけど、大聖殿の外の世界は酷いものだよ。
文明の発達程度が僕の前世でいう中世、いやもっと前かな。
農民は未だに人力で畑を耕しているし、物を運ぶのも荷馬車だ。
エンジン、という機械が作れるほどの工業基盤がないんだ」
「そうなの?
でも大聖殿だと」
「そう。
僕やレイナが当たり前に使っていた道具って、実は近代以降の文明がないと作れないものばかりなんだ。
でもそんなものはない」
「じゃあ何で……あ」
「そう。
聖力で実現させてしまっている。
逆に言えば、それが出来るからこそ文明は発達しなかった」
「ああ」
「聖力が使える階層にしかその恩恵が行き渡っていなくて、大聖殿の外の世界は遅れたままなんだよ。
でも進歩した道具って何もないところから作れるわけじゃない。
それを作り出せる世界の人が伝えない限りは」
やっと判った。
古の救世主だ。
他にもいたのかもしれない。
「転生者が」
「うん。
そしてその転生者って時系列を無視して現れている。
つまり異世界とミルガンテは時間的に並行していない」
シンはそこまで語ってからレイナを見て言った。
「ご免。
何か疲れた?」
あくびをしていた自分に気づいて赤面するレイナ。
「うん。
ちょっと色々ありすぎて」
「そうだよね。
今日はこのくらいにしておこうか」




