126.でもサービスは凄いのよね
そろそろパック料金の時間が近づいているというので退出することにした。
受付は無人だった。
「支払いは?」
「カードでも現金でもポイントでも出来るぞ」
一人一人使用者証をリーダーに読み込ませると料金が表示される。
思ったより安かった。
「徹夜したのに?」
「こんなもんだろう。
ビジネスホテルよりは安いがカプセルホテルよりは高い。
カラオケとかゲームやり放題だからもっと高くてもいいと思うんだけどな」
サリが言うとレスリーが続けた。
「この業界も過当競争で厳しいみたいですから。
使う人は学生や終電を逃したサラリーマンなので、あまり高いと来なくなります」
「でもサービスは凄いのよね」
ドリンクバーやシャワーまであるのだ。
しかもネットやゲーム、カラオケまであって漫画読み放題。
ホテルなんかより遙かに人気が出そう。
「最近のビジホは似たようなサービスがあるぞ。
それどころか朝飯無料とかマッサージチェア完備とか」
「マッサージチェアならここにもありますよ。
個室ですが」
そんなことまでして経営は大丈夫なのだろうか。
日本の底知れないサービスの奥深さを感じる。
いくら慣れた気でもミルガンテで育った聖女候補にしてみれば夢の国どころか神の国のようだ。
だが別に神様がやっているわけじゃない。
人間がこの環境を実現している。
これが当たり前に思えるようになるまでにはどれだけ進歩する必要があるのだろう。
「お待たせ」
リンは現金で精算していた。
クレジットカードやポイントカードは持ってないらしい。
「私の両親って、そういうところは厳しいから。
だから銀行口座が欲しいんだって」
なるほど。
レイナもレスリーも当たり前にクレカ、というよりはスマホでモバイル精算手段を使っているけど口座は本人の物ではない。
レイナのクレカはシン名義の口座引き落としだし、レスリーも似たようなものだろう。
自分でお金を稼がないと。
施設を出たら丁度サラリーマンや学生の出勤登校時間だった。
ここから駅までは遠いということで、サリが呼んだタクシーで帰宅する。
リンはサリが送っていった。
レイナはレスリーと一緒に別のタクシーで戻った。
「それじゃ」
「学校で」
自宅マンションの前で降ろして貰ってエントランスに入り、コンシェルジェに挨拶してエレベーターで自分の部屋に向かう。
初めて朝帰りしてしまった。
眠気がないのでお風呂を沸かしている間にカップうどんを作って食べ、ゆったりと入浴して上がったらいきなり眠くなってきた。
そういえば徹夜したんだった。
しかもコミックを読みっばなしだ。
それは疲れるよ。
ドライヤーで適当に髪を乾かしてパジャマに着替えてベッドへ。
カーテンを閉め切ると寝室は真っ暗になる。
おやすみなさい。
起きたらお昼過ぎていた。
スマホを見ても特に連絡はない。
日曜日なので学校はないし、さてどうしようかと思ってたら昨日のコミックを思い出した。
無意識のうちにスマホで注文しかけて自重する。
そんなことをしていたらお金はともかく部屋がすぐにコミックで溢れてしまいそうだ。
しかし、これからあの漫画の楽園に行ったらまた徹夜になりそう。
というわけで我慢だ。
ふと思いついてレスリーに電話してみた。
『レイナ様!
何かご用でしょうか』
他人の目がない場所では平気で「様」付けしてくるレスリー。
ウザいけどもう慣れた。
「ちょっと聞きたいんだけど。
レスリーって昨日行ったあのお店に詳しいのよね?」
『詳しいというか、よく利用はしていますが』
「なら教えて欲しいんだけど。
システムがよく判らなくて」
『いいですよ』
というわけで色々と教えて貰った。
あのお店はチェーンで日本全国に同じような店舗があるそうだ。
同じようなというのは完全に同じというわけではなくて、立地によって色々とコンテンツや設備が違うから。
「そうなんだ」
『昨日のお店はちょっと郊外の街道沿いにありましたよね?
そういう場所は比較的土地が安いので店舗も広くとれるんです。
なのでカラオケルームとかが充実しています』
「ないお店もあるの?」
『都会の繁華街とかだと雑居ビルの一室だったりしますね。
そういう場所ではあまり大人数が入れる部屋がなかったりします。
あと駅前だと一人用の個室がたくさんあったり』
「なぜ?」
『終電を逃したサラリーマンとかが使うんですよ。
カプセルホテルやビジネスホテルよりは安いので』
なるほど。
『田舎の方だとビリヤードとかダーツとかもありますね。
住宅街ならお部屋じゃ無くて座席だけとか』
「そんなのもあるんだ」
『個室より安いんです。
ドリンクバーやシャワーが使えますからお金がない人が使っているそうです』
レスリーは情報の宝庫だったが、いつまでも拘束するのは悪い。
するとレスリーは最後にチェーンのサイトを教えてくれた。
そこに全部書いてあるし、近くのお店も判るそうだ。
それどころかネットで予約も出来るらしい。
『ちなみにお店によって置いてあるコミックの種類が違ったりします。
その店に置いてあるかどうかもネットで検索出来ますので』
日本人でもここまでよく知っている人は多くないだろうと思うほどレスリーは詳しかった。
さすがはヲタク。




