116.聖力のせいでしょ?
「そんなことはない。
みんなで衣装着てポーズとっただけ」
サリがスタイリストとして色々と指示していたが、まさかプロではあるまい。
「そうか。
画像観た?」
「観てない」
レイナにそんな趣味はないし、そもそもまったく興味がない。
他人のコスプレを観るのも嫌なのに、なぜ自分の恥ずかしい写真を見なければならないのか。
「観てみるといいよ。
僕は感心した」
シンがスマホを見せてくるので渋々観てみた。
最初はよくある生成AIのCGかと思った。
画面の中央で静かに微笑んでいる銀髪の美少女は身体中から光を放っているようだ。
注意力が根刮ぎ奪われてしまう。
無理して視線を逸らしてやっと周囲に侍女やメイドがいることに気づくくらいで。
「……これ、何?」
「いや凄いよね。
念のため聞くけどレイナって別に演技とかしてないよね?」
「してない」
「だよなあ。
お化粧もしてないでしょ」
「もちろん」
「それでもCGにしか見えないって、聖力のせいなんだろうか」
シンが悩んでいた。
「聖力のせいでしょ?」
「いや、僕が知る限り聖女や聖人がここまで綺麗だったとかはないはずなんだよ。
直接知ってるわけじゃないけど」
シンはミルガンテの神官教育の一環として過去に存在した聖女や聖人についても教えられていたそうだ。
かなり詳しい資料が残っていて、絵姿やその履歴も見たらしい。
「聖女って大聖教の象徴だから、もちろん人前ではそれなりに着飾っていたはずなんだけどね。
奇跡を起こしたとかいう記録はあっても美人だったとかはないんだよなあ。
当たり前だから記録しなかったのかもしれないけど」
「美人って、シンもそんな風に思うの?」
レイナはむしろ意外だった。
レイナ自身は自分のことをそんな風に思った事がない。
ミルガンテでも自分の顔について何か言われたり褒められたことはなかったし。
白銀の髪については侍女からよく羨ましがられていたが、レイナとしては老婆みたいで嫌だった。
「だとするとこれ、レイナそのものなのかも」
シンが変な事を言った。
「なんで?」
「前にも言ったけど、僕たちの身体は僕たちの魂が具現化したものなんだよ。
その証拠にレイナは聖力を使って自分の身体を完璧に再生したでしょ。
つまり、魂は肉体の設計図というかそういうものを内蔵している」
「それは判るけど」
シンの今の身体はミルガンテの大聖殿に居た頃の見習い神官だったシンが、そのまま大人になったらこうなるだろうという姿に見える。
シンの魂はミルガンテにいようが日本にいようが同じだという証拠だ。
もっとも肉体は老化するのでそれに伴って魂も変化してもいいはずなのだが、それでもシンの魂は日本のシンの肉体にぴったり馴染んだ。
つまり、年齢を重ねることによる身体の変化は魂とは関係ない。
「ミルガンテに居た頃の私もこんなんだったはずだけど」
「見習い神官の身分じゃ聖女候補と接触する機会ってまずないからね。
それに聖女見習いっていつもベールつけてたよね?」
「それはそうだけど」
大聖殿の上層部の方針で聖女の神秘性を高めるためにあまり周りと接触しないように計られていた。
おかげでレイナにはお友達どころか親しい人すらいなかった。
「でも私、侍女や護衛騎士からも何か言われたことなかったけど?」
髪を除いて。
「大聖殿ってちょっと特殊な場所だったからね。
あそこでは聖力が一番で、後はどうでもいいというか」
それはそうだった。
何せ聖力が全ての基準なのだ。
身分とか態度とか、増して顔の美醜とかは関係ないとも言える。
「まあいいや。
で、レイナはどうするの?」
「どうって」
「やる気になったら多分、コスプレ界に君臨出来るよ」
「絶対嫌」
誰が好き好んで見世物になるか。
「まあそうだよね。
僕個人としてはもったいない気がするけど」
「そうなの?」
「綺麗なものを好むのは人間の本性でしょ」




