108.やっぱり聖力だと思う?
「え?
だって私、マークシートは全部埋めたけど国語とか理科とか適当だよ?」
「いいんだよそんなの。
文部科学省が合格したと言っているんだから」
適当過ぎるシンだった。
レイナは混乱から立ち直ると改めて書類を読んでみた。
古めかしいというか硬い文章だったがシンの言った通り、合格証書を送ると書いてある。
その証書も同封されていた。
「科目合格の通知書が来ると聞いていたんだけど」
「ちょっと待って……ええと、必要科目に全部合格した場合は直接合格証書が来るみたい。
あとは大学受験用の書類を取り寄せるだけだけど、それは後でいいから」
何か欺されたような気分だが、一応は理解した。
でも数学や英語はあれだけ勉強してやっと合格したのに、高校レベルではほとんど何もしていない歴史や地理とか理科とかも受かってしまったのには釈然としないものを感じる。
勉強しなくても受かるのならあの努力は何だったんだろう。
ていうかその前に。
「やっぱり聖力だと思う?」
露骨に現実が歪んでいる。
「判らないな。
マークシートだから偶然正答を選んだのかもしれないし」
「馬鹿にしないで。
確率の勉強もしているのよ」
シンはあははと笑って頭を掻いた。
「まあ、レイナが意識してないんならいいんじゃない?
わざとやったのなら罪悪感を感じても仕方が無いけど」
「そういうもの?」
「そうだよ。
そもそも運が良い人っているからね。
運なのか実力なのか判らない場合も多いし」
そうかなあ。
いくら運が良くても実力がないといずれはメッキが剥がれて没落すると想うけど。
でも高認って一度結果が出てしまったらそこで終わりなのよね。
「そもそも大学受験用とか高校卒業程度の知識って、社会に出たらあんまり役に立たないからね。
社会生活に必要な知識なら嫌でも覚えるし」
「そうなの」
「そう。
ていうか覚えられないんだったら社会ではやっていけないから」
そういうものなら仕方が無い。
無理矢理自分を納得させるレイナだった。
合格証書を持って夜間中学に行くとリンが仰け反った。
「嘘!
こんなことってある?」
レスリーとサリは平常運転だった。
「おめでとうございます」
「まずはめでたい」
リンがくってかかる。
「二人とも変だとは想わないの?」
「人生は不思議と不可解の連続だぞ?
リンも早く覚えた方がいい」
「レイナ……さんならやると思ってました」
何をやると思っていたんだろう。
「納得出来ない」
「世界には納得できなくてもそうなっていることがたくさんある。
仕方がないことなんだよ」
サリは真面目腐った口調だが口元がひくひくしている。
いい性格をしている。
「そういえばリンにも結果届いたんだろう?
どうだった?」
「理科の2つと国語が受かった」
「やったじゃないか!
努力が報われたな!」
レイナにすら皮肉にしか聞こえない。
リンは黙ったまま席に着くと参考書を開いて食い入る様に問題を解き始めた。
数学か。
つまり落ちたと。
授業が始まってから丹下先生が手空きになった頃を見計らって手を挙げる。
「明智さん、何か?」
「ちょっとお話が」
席を立って教壇の前に行き、封筒から書類を出してみせる。
「ああ、高認の結果が出たのね……え?」
「受かったみたいです」
丹下先生が絶句する。
それから慌ててレイナを連れて教室を出た。
みんなには自習するように言うのも忘れない。
そういうところはプロだ。
隣の空き教室で向かい合って坐ってから改めて合格証書を見た丹下先生は言った。
「何というか……予想していなかったわけではないのですが」
「そうなんですか?」
丹下先生はレイナの実力を知っている。
数学や英語はともかく国語や理科はズタボロというか、そもそも高校レベルの勉強はしていなかったのに。




