裏世界の情報屋
アキスが向かったのは、村を出て北にある町、エーラだった。
数年前に発見された新大陸エキナセアには、各国から編成された探索隊が向かったが、その全員が消息を絶った。それ以来、王国政府はさらなる犠牲者を防ぐため、新大陸エキナセアを禁足地と定めた。現在、新大陸へ向かう航路はすべて海上封鎖されている。
だが、裏ルートを使えば別だ。
アキスはその裏ルートへのコネクションを得るため、少しでも情報を集めなければならなかった。
町のあらゆる場所で裏ルートの情報を探す。しかし、それは当然、闇の世界の領域だった。盗賊や犯罪者が関わっており、普通の人間が足を踏み入れるべき場所ではない。
アキスはならず者が集う裏路地へと向かった。
冷たい空気が肌を刺す中、周囲の男たちは薄ら笑いを浮かべながらアキスを値踏みするように見つめていた。
それを無視しながら、アキスはあるバーへ入る。
そこには、一人の怪しげな男が酒を飲みながら待っていた。
「こっちへこい……ククク。」
微かに薬草の香りが漂う。
「薬師アキス・メネス、待ってたぜ。」
この男は裏世界で「ハゲワシ」と呼ばれる情報屋だった。
アキスは黙って金貨がたっぷり入った袋を男の前に置く。
「……で、何が知りたいんだ?」
アキスはようやく口を開いた。
「新大陸エキナセアへ向かう裏ルートを教えて欲しい。」
ハゲワシはニヤリと笑った。
「ククク……そいつぁ命知らずだな。いいぜ、教えてやるよ。」
彼は声を潜め、続けた。
「裏ルートは、裏世界の巨大組織『ノクターン・オーダー(夜想曲)』が開拓した航路だ。やつらは借金を返せなくなった人間を、監視を潜り抜けながら新大陸へ送っている。『新大陸から何か持ち帰れば借金を帳消しにしてやる』って約束でな。」
ハゲワシは酒をあおる。
「だが、今まで一人も生きて帰ったやつはいない。」
「……どこへ行けばいい?」
「ヒルデガルド大陸の端、港町コーサスだ。夜な夜な、やつらの船が出ている。」
アキスは一言「分かった」とだけ言い、バーを後にした。
その夜、アキスは宿に泊まり、翌朝、町を出る。
次の目的地は普通の町オリヴィア。
旅は、まだ始まったばかりだった。