あの日の誓い
ファウル王国の外れに位置する小さな村、シーア。
この辺境の地では、日々の暮らしがゆるやかに流れていた。村人たちは同じ顔ぶれで、同じ時間に働き、同じように夜を迎える。変わらない日常。変わらない景色。だが、その静かな村に、ひとつだけ確実に迫る影があった。
――死。
村に暮らす少年、アキス・メネスの幼馴染、シェリル・ハートは原因不明の病を患っていた。
その病にかかった者は、十八の誕生日を迎えることなく命を落とす。医者たちは手を尽くしたが、治療法は見つかっていない。
彼女は徐々に衰弱し、家にこもることが増えた。しかしある日、幼い頃に二人でよく訪れた海岸線へと足を運ぶ。潮風が頬を撫で、波の音が静かに響く。その場所で、彼女はアキスと再会した。
「アキス、私ね……ずっと話したかったの。」
そう言うと、シェリルは微笑んだ。だが、その瞳には言いようのない悲しみが揺れていた。
「病気が治ったら、世界を見て回りたいの。でも……お医者さんが言ってた。この病気は、十八になる前に必ず死ぬって。」
ふと、彼女の指が震えた。
「どうして……どうして私だけ……?」
その声は、海風にかき消されそうなほど小さかった。
アキスは強く拳を握った。何かを言おうとして、言葉が出ない。ただ、一目惚れした少女が泣いている。それだけで、どうしようもなく胸が痛かった。
「俺が必ず治す。何ヶ月かかろうが、何年かかろうが、絶対に治す。」
彼女を見捨てるわけにはいかなかった。
シェリルは母親に連れられ、家へと帰っていった。その背中を見送りながら、アキスは静かに誓う。
その日から、彼は村にある薬草の本を片っ端から読み漁った。記録を取りながら、自らの体で調合した薬を試し続けた。だが、どれもシェリルの容態を好転させることはなかった。
――そして、五年の月日が流れた。
シェリルは十五歳になり、タイムリミットが迫っている。
そんな折、アキスは村の図書館で埃をかぶった一冊の古書を見つけた。
『新大陸エキナセアには、どんな病でも治す薬草が存在する』
この世界にある薬草はすべて試し尽くした。ならば、最後の希望はその新大陸にある。
「……決めた。」
アキスは旅の支度を整えた。
誰もいない家を静かに見つめ、扉を閉じる。そして、最後にシェリルと再会した海岸線へと向かった。
朝焼けが、薄暗い空を淡く染めていく。
波はあの日と同じように凪いでいた。
アキスは拳を胸に強く当て、誓う。
「俺、あの日の誓いを必ず果たすから。シェリル、待っててくれ。」
そして彼は、村を後にした。