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84.懺悔夢


『鎮まり給へ、禍神(まがつがみ)よ』

 

 この身は、暗闇へと封印された。浮世と幽世をつなぎ、この世の人ならざるものを招いたためである。

 仕方のないことだと判断していた。そうしなければエネルギー不足になり、この世界が自壊するのだと。ただ、愛し子たちと会えなくなるのは、寂しかった。


 封印されて、二〇〇年経とうというとき。とうとうエネルギー不足が発生し、世界循環システムにエラーが生じた。やむを得ず、自由のきかない封印の中から式を書き換え、時空に穴を開けた。


 そして、人魔界戦争が勃発した。穴の座標が、偶然にも双方の世界の街であったのが原因であった。最低限の補給を済ませ、すぐに穴を閉じようとしたが時既に遅く。封印の中で衰えた自身の力では、穴を閉じることもできず、多くの者が犠牲になった。


 目の前で、みなが死んでいく。骸が積み上がっていく。違う、こんなこと、望んだわけじゃない。

 血に染まり、パニックになったこの手は、気づけば死者蘇生の式を書き出していた。それが、戦局を泥沼化させてしまうことも予測できずに。


 二八五日に及ぶ戦争の末、終戦。かろうじて穴は閉じたが、制御系は緩み、あらゆる異界との穴が生じてしまう状況になってしまった。

 全ては、この手で招いた惨劇であった。


 こんな封印、本来なら、容易に壊せるはずであった。

 しかし、この身はいつの間にか人に近くなりすぎていた。不用意に手に入れてしまった感情回路が、無意識のうちに出力制御を行っていた。

 こんなもの捨ててしまえばいい、と判断した。だが、できなかった。あの色のない世界に戻るのが怖かったのである。

 

 嗚呼、誰かこの声を覚えていてくれ。この身を助けてくれ。

 止まらないこの涙が、この手から零れ落ちる前に……。




「いった……」

 瞼を上げた。頭には、ズキズキとした痛みがあった。肩は重く、どうにも寝覚めの悪い朝であった。

 また、長い夢を見ていた気がする。案の定、思い出せないが。悲痛な声が、鼓膜の奥に幻聴のように残っている。

「夢魔でも寄生したか……?」

 枕の中を確認し、振ってみても何も出てこなかった。

 

 忘れた夢の内容なんて、朝食用の卵を割る頃には意識から抜け落ちるほどの、些細な話であった。

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