83.見たことがない激怒
その後、家に帰り、アラザンに事の顛末を話した。平手打ちされた。傷とは反対側の頬に。
「これで貴方が死んでいれば、それこそ戦争です、分かってるんですか」
我ながら軽率だったなと、他人事みたいに考えていた。
「この街ですから、生き返るのでしょうけど……お節介なんかで殺されていいのですか、貴方は」
その言い方には、引っかかるものがあった。
「なんか、なんて言うのかよ。ガキ一人殺されかけたんだぞ、黙って見てろって言うのかよ」
「そうですよ、ええそうですとも。そんなガキの命より自分の命大事にしろって言ってるんです」
とうとう苛立ちが臨界に達し、思わずその胸ぐらを掴んでいた。しかしアラザンも退かなかった。怯みもしなかった。その目には確かな、今までに見たことがない類の激怒があった。
長い沈黙があった。怒気をはらんだ呼吸音が、徐々に鎮まっていくのが分かった。
「……悪かった。やめとくわ、こんなこと」
「そうしてください。……こちらこそ、言い方がきつかったですね。ごめんなさい」
仲直りできるうちに仲直りしなければ痛い目に遭う。それはお互いに重々承知していることであった。
翌日、全て報告した。クロミツと共に怒られはしたが、重要な情報だということで本国からは不問にされた。この件に関しては一切他言無用とのこと。戒厳令に箝口令を重ねたミルフィーユが、平和というものらしい。
そしてまた魔法少女たちと戦い。何事もなかったかのように、普段通り負けてやったのは、当然の話。




