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82.正気かよ

「黙れ蛆が。それ以上口を開けば撃つぞ」

 暗い銃口が向けられた。目は嫌悪感を示していた。

 この膠着と惰性を打破しなければ、と王国側も躍起になっているらしい。特にこの一〇年くらいは、内乱も発生し食糧難に陥っているのだと。休戦協定の内容は、相互干渉の一切停止だ。当然の結果だろう。

「話し合う気は無いのかよ」

 発砲音がした。躱した弾丸が頬をかすめ、細く血が垂れていた。

 ……この野郎、撃ちやがった。正気かよ。

「大人しく我らに投降すればいいものを……醜い異形種共が」

 昔は、双方の国の間で貿易が行われていた。足りないものを与え合おうという方針で。しかしいつの間にか価格がおかしくなり、食料は安く買い叩かれるだけのものになってしまった。……何回も繰り返されている大戦で、帝国側から仕掛けたのだって一つや二つではないのだ。

 だからこそ、帝国は食に関しての異常な執着を見せる。帝国の銀の記章、匙の上に乗った花の意味。それは、戦時中のあの飢えを、野花を匙で食したあの屈辱を、食べることを蔑ろにされたあの怒りを忘れるな、というものらしい。

「本国に伝えておけ。我ら王国は、戦争をする気でいると」

 お国のために戦うと誓った兵士はここまで狂えるのか。王国の教育水準の高さに鳥肌が立ってしまう。 


「そうかよ……無関係な女の子巻き込んで殺してでもかよ」

 それだけ吐き捨てて、懐から閃光弾を放ち、夕闇に消えた。ひりつく頬の痛みと胸くそ悪い気分を抱えながら。

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