80.代理戦争
裏路地でスマホを起動し、電話をかける。
「もしもし、クロミツ。ちょっと索敵頼めるか」
『んー、上に怒られないようにネ?殴っちゃダメだヨ?』
「分かってる……分かってるっての」
力みそうになった拳を開き、息を吐く。
『マナ反応は学校の裏山ネ』
「了解。ありがとな」
通話を切り、裏山へ駆ける。
小高い丘の頂上付近。見晴らしがいいそこに、それはいた。
「良い性格してんな、このクズ野郎」
愛くるしいぬいぐるみのようなクマ。魔法少女たちに力を与えた、張本人。
「えー?何のことポム?」
王国の使徒、ポムル。無邪気な声音、幼児のような仕草。しかし、そこには一分の隙もない。
「こんな強硬策に出るとは思わなかったぜ、使徒様よ……いや、元・異界戦線陸軍大佐」
それを聞いて、ぬいぐるみの眼から、一瞬殺気が放たれた。
「ほう、よく嗅ぎつけたな。流石、ドブネズミといったところか」
その体が光に包まれ、新たな姿があらわになった。
夕日に照らされる、柔らかそうなクリーム色の髪。淡い空色の瞳。幼く、中性的な顔立ちにはそぐわない、白い軍服と無骨な銀のライフル。
これが、俺たちが戦争したくない相手……ドリームランド人の本来の姿。
帝国と王国は古来より争いを繰り返してきた。
前者は食料資源に恵まれ、鉱産資源に乏しく。後者は鉱産資源に恵まれ、食料資源に乏しかった。お互いの資源が、喉から手が出るほど欲しかった。それだけで、争う理由は十分であった。
体外的な勢力に対抗する必要があったというのも、帝国が世界統一できた理由の一つである。
なまじ魔法という概念があるだけに、戦局は泥沼化した。人々の間には憎悪と怨嗟、嘆願と不信が広がった。八〇年前に不戦条約が結ばれてからもそれらは消えず、水面下で陰謀が渦巻いていた。
そして今回。国内経済が不況に傾きつつある帝国が、国民の不満の矛先をそらすための勢力拡大策に出た。……それが人間界への侵出。
そこに王国が介入してきた。魔法少女という盾をもって。
王国側は人間界の領土保全の援護という大義名分を得て。万が一俺たち帝国側が魔法少女に危害を加えれば、その報復として宣戦布告するという道理を手に入れた。
これはいわば、代理戦争なのである。
鉱産資源、ミラクルマテリアル。あの金属から精製される武器の威力は想像を絶する。それこそ、何の訓練も受けていない無謀な乙女を、救世主に仕立て上げることができるほどに。




