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76.勲章のない実績

「あー……俺がこのまま彼女できなかったら嫁にもらってやるとか言われたな」

 その瞬間、ザクロが飲みかけていたお茶を噴いた。しばらくむせ返っていた。大丈夫だろうか。

「それ、本当に……?え、君はいいの?ツッコむところじゃないかなそれ?」

 今の生活に満足しているのは俺も同じだし。条件としては悪くないと思う。

「まあ、あくまで彼女ができなかったって話だしな。んなすぐの話じゃないだろ」

「いや、たぶんアラザンかなり本気な気が……えっと、位置探知の防犯魔法とかかけられた?」

「?ああ、いくつかやってもらったな」

 ハグレモノに襲われた件もあるし、スライムにされても迎えに来てもらえたのはそのおかげでもあるし。今は新たにシノという懸念もあるし。

「あー、うん、なるほど……これは苦労するなこの二人……」

 頭を抱えて苦笑するザクロ。そんなにまずいことが何かあっただろうか。


「えっと、アラザンは君の手料理を食べたってことかい?」

「そうだな。てか飯のほとんど俺が作ってるし、俺がいないとたぶんくたばるぞアイツ」

 そう言うと、ザクロは腹を抱えて笑い転げていた。そんなに面白かっただろうか。

「どうりで太ったわけだ。太腿とか腰回りの贅肉増えたなあって思った」

「あ、それ本人の前では言うなよ?アイツ、いっつも俺のせいにして怒るから」

 すると、ザクロはまたころころと笑って。

「スーパーで肉とか野菜の見分け方教えたんだって?それ、けっこうすごいことなんだよ?」

 曰く、アラザンは昔から人に教わることを拒んできたと。負けず嫌いで、自分でやらないと気がすまなくて。アイツが教えを乞うたのは、ザクロがする中では十人以下。板書は写して評定は取っているが、先生の話は全然聞かない。いつも速筆魔法で授業を受けていたらしい。


 おそらく、同居して数週間で人格が変わってしまったのだと。それこそ、プライドや尊厳をズタボロにされて。しかし、それで良かったと。話を聞く限り、これまでの人生で一番楽しんでいるからと。

「君、身分とか肩書とか気にしちゃうタイプみたいだけどさ。オレとしては、あの子に信頼されて、太らせたとかいう何の勲章にもならない実績のほうがよっぽどすごいと思うよ」

 そうなのだろうか。実感がわかないが。

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