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73.手作りマドレーヌ

 梅雨。しとしとと降る雨の音は心地良いが、乾かない洗濯物に憤慨を感じる今日このごろ。

 家でだらだらとテレビを見ていた折に、スマホの着信音が鳴った。アラザンからであり、曰く、幼馴染が家に遊びに来ると。まだ菓子屋のシフトがあるので、出迎えは任せると。

 そういうのは事前に言えよ、というかアラザンの幼馴染なら相当なお坊っちゃんじゃんどうすればいいんだと思ったが。できるだけのもてなしはしておこう。


「よし」

 黒いエプロン。紐を結び、気合を入れる。

 我らが帝国の最大のもてなしは、手作りの菓子なのである。それこそ、社交界の茶菓子の味で品位が見定められるほど。

 正直、俺が作れるものはたかがしれているが。やるしかない。

「木べら木べら、と」

 オーブンを二〇〇度に予熱を始め。ボウルにバターを入れる。柔らかなクリーム状になるまで混ぜたら、グラニュー糖を加えて。隠し味に蜂蜜を。これでけっこう仕上がりが変わってくる。

 薄力粉とベーキングパウダーをこし器でふるい入れる。単純作業ながらも、気を配る必要がありこれもなかなか集中力が必要だ。

 別のボウルに卵を割り入れて、溶き卵にする。ここは慣れたものであり、チャカチャカという音が心地よい。それを二回に分けて生地に加え、その都度よく混ぜ合わせる。いっぺんに入れると分離するんだよなこれ。

 最後にスプーンで生地を掬い、アルミホイルの型の中へ。あとは焼くばかりであり、洗い物を片付けているうちにいい匂いがしてきた。

 ピピーッという電子音に呼ばれてオーブンを開くと、熱気と共に香ばしい香りがぶわっと広がった。

「上出来上出来。あー良かった、これしかまともなお菓子作れねーからな……」

 マドレーヌ。俺が唯一他人に出せる味のお菓子。

 焼き加減をチェックして、クーラーラックに並べていく。山なりに大きく膨らみ、端は良いキツネ色。素晴らしい。

「いただきます」

 できたての熱々を手に取り、口に入れる。

 膨らんだばかりで、ふっくらと熱い空気を含んだ生地。手作りらしいざらりとした舌触りに、やわらかな小麦の香り。アルミホイルに色濃く焼けた端っこがサクサクしてまたたまらん。

 いかんいかん。気を抜くと全部食っちまう。

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