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70.先に謝罪しておくスタイル

 この街に流れ着いたのは、ある意味幸運かもしれない。

 ここにはそれぞれの世界の、最高軍事力が跋扈している。知識も錯綜している。もしかしたら、解呪の糸口も見つかるかもしれない。

 で、俺をえらく気にかけているのは、勇者の卵として期待しているからだと。

「んな期待すんなよ、俺はそんな大物じゃねえっての」

「まあ、そうなるよね。大丈夫、僕は君にあまり期待してないから」

 その言い方もそれなりに傷つくのだが。仕方ない、シノの片割れなのだ。聖人であるはずもない。

「もうしばらくは様子を見るつもりみたいだけどね。ああ、勘違いはしないで。この子、誰の味方もしない主義だから」

 必要と判断すれば、俺もアラザンも殺しの対象になる。それこそ、帝国の全てを嬉々として敵に回す邪悪さをもって。


「そうだガナッシュ君、並行特異点の胡蝶(パラレル・バタフライ)って聞いたことある?」

 曰く、予知夢に近いものらしい。この街特有のもので、未来の事象が夢の中に現れるのだとか。

 特に知人が死ぬ夢。街が滅びる夢。それらは現実になる可能性が高いと。夢で結末を知っている分、打破しようと画策するためだいたい最悪の事態は回避されるらしいが。

「もしも僕らが死ぬ夢を見たら、教えてほしいな」

 正直、全く想像できないが。この魔王を殺せる奴なんているのだろうか。

「あー覚えてたらな」

 そんな生返事をした。真面目に答えるのが怖かったのである。


「あと……このあいだは、急に抱きついちゃってごめんね。……キスまでしちゃって」

 辺りは薄暗くなっていたが、かなり赤面しているらしいことは見て取れた。

「この子にあたたかい料理を食べさせるなんて、何千年もできてなかったから……嬉しくってつい。ほんとごめん、僕が現界に出るのなんて滅多にないから、他人との距離感分かんなくて」

 曰く、夢の中でシノと接するときの距離感でやってしまったと。だからシノもやたらと近いのか。いつもどんだけくっついてるんだこの二人。

 自然とキスができてしまうのは、お国柄だったのか。あるいは、そういう関係なのか。

「あと、今後シノがちょっかいかけると思う。セクハラしたらごめんね」

 まさかの先に謝罪しておくスタイル。おい待て聞いてないぞそんなの。

「僕も若かったからね。シノにあれこれけっこうしたんだよ。ほら、僕の権能って潜入、誘拐、監視、拘束なんでもできるから」

 便利すぎる。犯罪の匂いがすごい。

 どうしよう、俺ほんとに危険な奴に喧嘩売ってしまったかもしれない。

「い、いざとなったらカゲノさん助けてくれない……?」

「……ごめんね。僕はシノの味方だから」

 さっと目をそらされた。ツッコミ不在とはこのことを言うのではないだろうか。


 その後、バイト先で料理を教わったらしく、カレーをお裾分けに来たこともあったりして。軽く感動を覚えてしまったのは秘密である。

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