7.ダメ男坂に転げ落ちていく
ある夕食。二人で向かい合っての食事。誰かと食事をするのも久しぶりだという感覚も抜けつつある今日このごろ。
「お前、ほんとうまそうに食うよな」
「……美味しい、とは一言も言ってないはずですが」
「ほんとにうまいもん食ってるときはみんな無言なんだぜ。知らねーの?」
良家の者とあって、礼儀作法は洗練されている。が、いくらか楽しそうに飯に手を伸ばすものだから。ガキくさいのが可笑しくてつい笑ってしまいそうになる。
少食らしく、あまり量を食わせることができないのが残念だ。
「また大量に残りましたね……」
「複数人分作るとなると、どうしても家にいた頃の感覚で作っちまうからな。まあ、弁当用に冷凍して食ってけば片付くだろ」
そのために濃い味で作っているわけでもあるし。
すると、アラザンは首をかしげて。
「?弁当は買うものではないのですか?」
「……お前、仕事中の昼飯何食ってた?」
この家に弁当箱は一つだけ。つまり。
「コンビニでお世話になっています」
「お前帝国民としての誇りはないのかよ!?」
ダメだコイツ、ほっといたらダメ男坂に転げ落ちていく。帝国のメンツのためにも、コイツのポンコツぶりはできるだけ隠さなくては……。
「というわけで、今日の昼食これな。ありがたく食えよ」
数日後。人間界で買い揃えた一式での弁当を完成させていた。
「これは……中身は、ガナッシュの料理ですか?」
「おう。全部残り物だけどな」
と、軽く返したが。俺は見てしまった。あのアラザンが、口元をほころばせていたのを。
こ、コイツちゃんと笑えたのかよ……。
「これはもう、アイサイベントーというやつじゃないですか」
「あー、もうそれでいいんじゃねーの?」
俺が作ったとバレても困る。この家に派遣員が二人もいるとカチコミされたらたまったもんじゃない。
「……あっ。愛妻弁当は流石にまずかったか?」
数日後、昼食中のアラザンがパパラッチされ。アイサイベントーだと弁明したことで大炎上になったのは、言うまでもない話である。