62.ご都合主義の神
桜の蕾も膨らみ、春一番が吹き荒れる。天気予報は花粉の量を告げる季節。そんなある休日、いつも通り買い物に行く途中でのことであった。
【余は魔獣と美女のカプの神である】
白い布を体に巻き付けた、古代人のような風体の壮年男性。声は厳かに、しかし内容はえらく俗っぽい雰囲気を醸し出していた。
この街には神が顕現する。と言っても、その正体が本当に神なのかは分からない。ただ、俺たちやこの世界での言語概念に翻訳して、一番近い意味合いの語がそれなのである。
大別して、神は三種類。天候などを司り、土地神として崇められることもある自然型。金運や縁結びなどを司る社会型。そして、分類不可型……俗に言う、ご都合主義型。
今回のこれはご都合主義型であることは言うまでもない。誰だよこんなの顕現させた奴。
基本的に神の術式は解除不可能。時間経過でしか解けない構造になっているらしい。出現率こそそこまで高くないが、以前街の住民の半分にケモミミを生やされたことがあったそうだ。
では、遭遇してしまった場合にはどうすれば良いか?答えは簡単。何か仕掛けられる前に全速力で逃げることである。
【逃がすかアアア!】
即座に回れ右して逃げたものの、この神が地味に足が速くて。謎のレーザーを連射され、そのうちの一発をかわしきれなかった。
「うっ……」
かすめた右腕が熱を帯び、じわりとそれが全身へと広がっていく。だんだん頭もぼんやりし始め、脱力してしまう。
【呪いを解くのに必要なのは愛のキッスじゃ……まあ別にキッスなくても一日で解けるから安心せい。わしゃ新しいカプの芽吹きをみたいだけじゃからな】
これ絶対邪神だろ。人知を超えた力をシンプルに性癖に注ぐんじゃねえよ……と文句を言いたかったが、意識も徐々に薄れてきてしまう。
【さて、何に化けるのかは目覚めてからのお楽しみじゃな】
地面に倒れ伏し、アスファルトを頬に感じながら。視界は暗転した。




