アラザン小話8.魔王
安堵するのと同時に、足に力が入らなくなり、その場に膝をついた。オーバーマナチャージの副作用……通常版よりも強いと聞いていたが、これほどとは。これ、法定基準ギリギリなのでは……いや、超えている可能性の方が高い。クロミツめ……これが上の判断なら、世も末だな。
「こんにちは、氷君。お疲れみたいだね?」
音もなく、いきなり背後から声をかけてきたのは、例の魔王であった。
「……見ていたのですか、最初から」
「うん、見てたよ」
「名乗り出ませんでしたね。貴方ならもっと簡単に殺せたでしょうに」
「ひとに嫌われるのが趣味だからね。感謝されるようなことはできるだけしない主義なんだよ」
煙草臭い男。やはり気に入らない。
「私を殺しに来たのですか」
「そうだよって言ったら、どうするの?」
「どうもしません。マナ切れで動けませんから」
薬の副作用もあり、まだ手足がまともに動きそうにない。姿勢を保つのも辛くなり、すぐ側の壁に背を預けた。
すると、一歩、また一歩と魔王は私に近寄ってきた。
「キミを殺せば、あの子も本気になってくれるかな?」
喉笛に爪を突きつけられた。不覚にも、息を止めてしまった。恐怖してしまったのである。
いや待て。あの子って、まさか。
「カゲノ、食べてもらっていいかな?」
その一瞬だけ、マナの起動を感じた。同時に、視界が暗転した。
「……っ」
危機感を覚えたものの、意識はすぐ戻り。体は随分と楽になっていた。
「これがボクの、いや、カゲノの権能。キミの中に混じってた、悪いものは綺麗に消えたはずだよ」
言われて確認してみれば、確かに毒素が完全に消滅していた。
「じゃあ、またね。お大事に、氷君」
それだけ言って、魔王はまた裏路地の闇に紛れて消えた。




