58.ようやく開店
正月の次はバレンタインだと、スーパーがまた躍起になっているころ。夏の暑さが嘘みたいなくらいに寒い日々。
その中で、俺たちはようやく店を開くことになった。
物件の借り入れから開店までえらくかかったが。販売契約や材料の入荷ルートの確保、二界間の情勢を鑑みると仕方なかったのである。
「お客さん、ちゃんと来るのか不安だな……」
「産直での売上からして、きっと大丈夫ですよ。来なかったらガナッシュが食べて片付ければいいだけです」
「しれっと俺に仕事押し付けんなおい」
食材は人間界のものを使う、という約束。正直、代用品だと味が微妙に変わってしまい、レシピを変更するのは本当に大変だったのだが。これも信頼のため。いずれ我が国のものを使えるように交渉していこうという計画である。
「公式アカでも告知しといたヨ。拡散数もばっちりネ!」
いつの間にか設立されていた、悪の組織のホームページとSNSアカウント。時代だなあと思った。
今日はまだお試しということで、ショーケースの半分くらいにケーキを入れている。クッキーは産直で好評だったので、バスケットいっぱいに。
店内はほんのり甘い匂いに満たされており、柔らかなオレンジ色の証明で照らされている。壁にはアンティークチックな洒落た時計。
制服は、白いパティシエ風。カラメル色のくるみボタンがまた可愛らしい印象。これはザラメからの熱烈な希望である。
「なあ、これやっぱり俺には似合わないんじゃ……」
「そんなことあらへんもん!可愛いは正義やよガナッシュちゃん!」
俺、お菓子作り得意じゃないからレジ担当なのに。アラザン目当てで来た奴らを筋肉で出迎えるのちょっと申し訳ないのだが。
「あー、あれじゃ、ギャップ萌えというやつじゃ」
「シンプルに似合ってる奴に言われても何の慰めにもならねーよ……」




