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57.ワインレッドの双眸

 そのやりとりを見て、シノはまた笑う。

「冗談冗談。じゃ、このあたりでボクはお暇するよ」

 そして椅子から立ち上がってこちらに歩いてきたかと思えば、急に抱きしめられた。

「えっ、なっ……!?」

「……本当に、ありがとう」

 耳元に口を寄せて、俺にしか聞こえないような小さな声で。震えそうで、泣きそうな言葉。すぐに手を離して、見つめてきた双眸が、穏やかなワインレッドをたたえているように見えたのは、気のせいだろうか。

 すると、つん、とその口元を俺の頬に触れさせて。ふらりと踵を返した。

「ま、待て、ちょっ……!」

「じゃあ、またね。勇者の卵君」

 ベランダの扉を開け、手すりから飛び降り。そのまま夜の闇に消えてしまった。


「ここ五階だぞ……いや、翼あるし平気か……」

 溜め息を吐いて振り返ると、杖を構えて臨戦態勢に入っているアラザンと目が合った。足元に氷が広がっているあたり、反射的な、相当焦っての行動であったらしい。

「何してんの?」

「い、いえ、その……急にハグしたりキスしたりするものですから、びっくりして思わず」

 びっくりで氷漬けにされたらたまったものではないのだが。


 その後、色々と心配だからと、防犯用魔法をいくつもかけられた。過保護だけど悪い気はしないな、と思ったのは内緒の話である。

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