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56.最も平和的で卑怯な報復

 チキンステーキ、チャーハン、コンソメスープに照り焼きと、作れるものを片っ端から作り、すぐに魔王さんが平らげていく、というのが一時間ほど続いた。

「ん〜お腹いっぱい!満腹になったのなんて何千年ぶりかなあ、二人とも、ありがとうね」

 積み上がった皿、空になった炊飯器。うちにあるカロリーのほぼ全てが食い尽くされた。明日の朝ごはんどうしよう。

 まあ、いいか。見たいものは見れたし。


「食い破られるよりも腹いっぱいの方がよっぽどいいだろ、魔王さんよ」

 我が帝国は、食を神聖視する。だからこそ、食を苦痛として味わうことなど、許してはならないのである。

 腹いっぱい食わせて、幸せそうな顔を目に焼き付ける。これは、最も平和的で卑怯な報復なのである。

 魔王さんはというと、数秒の間呆けていた。ぱちぱちと瞬きして、見開かれた目は、恋でもしているかのように輝いていた。

「そうだね、そうだったね。キミ、ほんっと最低だね!でも、ボクそういうのすごく好きだよ」

 金と血のヘテロクロミアが、初めて俺を貫いた瞬間であった。殺気のような、焦がれるような欲望が、背を這うような気味悪さがあった。


 そしてまた一瞬でもとの子供くさい雰囲気に戻り、尻尾を揺らしながら身を乗り出してきた。

「もういっそここに住もうかな、ね、養ってよガナッシュ君」

「うちはダメ男が一人いるんで無理っすね」

 無言のままぽかぽかと背を叩いてくるアラザン。ダメ男の自覚はあったらしい。

「お酒も煙草もやめるから、ね?」

「一日どんだけ使ってるんすか」

「二パックと三箱」

 要するに十二缶と三十六本。あからさまにダメだこの男。

 というか煙草は本当にダメだ。うちの国では何百年も前に全面禁止されている。それこそ、味覚を狂わせるからという理由で。

 ずっと変な匂いするなと思っていたが、まさか煙草だったとは。

「どうして貴方はダメ男ばっかり集めるんです?ダメ男吸引器なのですか?」

「黙ってろダメ男その一」

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