55.ここで一矢報いたい
そして、家に帰り着き。
「説明してください。一から」
ボスからもらっていた薬を飲んで塗って、アラザンの回復魔法を受けつつ説明した。
その間、魔王さんは物珍しそうに部屋を見ながらソファに座っている。早く帰ってほしい、とアラザンの顔に書いてあった。うん、気持ちは分かる。
「どうするつもりなんです?何か策でもあるんですか?」
「まあ、狼を口説くなら胃袋からって言うだろ」
これは、帝国特有のことわざである。
「流石、ボスの治療薬だな。もう体の調子が戻ってきた」
「私も頑張りましたが」
「はいはい、ありがとな」
そう言えばコイツ、攻撃魔法専門だったな、なんて思いつつアラザンの頭を適当に撫でて、台所へ向かう。
「ガナッシュ君、もう平気なの?大丈夫?」
もてなしの品として出したはずのクッキーの盛り合わせが全て食われていた。ちょっと待たせる間の分と思っていたのだが……この人の胃袋どうなってんの?
「あっ、氷君!キミがこのクッキー作った子だよね?ありがとう、すっごく美味しかったよ」
にこ、と無邪気に微笑まれて二の句が告げなくなるアラザン。魔王さん、こういうところズルいんだよな。天賦の才か。
まあ、そこはひとまずおいといて。
「じゃ、魔王さん、少し待ってて下さい。今からお礼作るんで」
そこから、猛烈な調理劇があった。アラザンの切断魔法まで借りた、大立ち回りであった。
「どうしてこんなことするんです?お礼なら、日を改めてもいいでしょう?」
「いや、たぶんあの人、今夜しかここに来ないからな……。知ってるだろ、あの人の定例会欠席回数」
放浪癖というか、規律意識の欠如というか。おそらく、約束なんかしてもちゃんと守らないタイプ。……だから、ここで一矢報いたいのである。
何か言いたげなアラザンだったが、俺の目を見て、なんとなく事情は察してくれたらしかった。
「世界平和のため、ですか」
この会話、たぶん筒抜けなんだろうなとは思いながら。
「いや、ただの俺のワガママだな」
包丁を握る手に、少し力が入ってしまっていた。




