48.回想夢
暗闇の中をたゆたっていた。上も下も、今もその前も分からないまま。気がつくと、光があった。ぬくもりと、質量が誕生した。
これが『世界』だと、名付けられたことを知った。シャボン玉みたいに世界は生まれ、壊れていく。美しく、儚く、脆い。この手で創ったはずなのに、この目の前で崩れていく。
あれこれと試行錯誤して、ようやく触れることができた世界。ガラス玉のように繊細で、透き通り、歪んだ世界。
いつしか生まれた、『生物』という概念。そして、言葉という領域にたどり着いた『人』という概念。
この地に降り立ち、人を見た。この身も気づけば、人の形を捉えていた。
『ね、一緒に遊ぼうよ』
幼子に手を引かれた。遅れて、自分も幼子だと知った。
人はあっけなく老い、朽ちた。あまりにも短い一生。その小さすぎるキャパシティと演算リソースで、これほどの速度の情報処理を行えるのは不可解だった。どうやらそのカラクリは、感情と呼ばれる回路にあるようだった。
悪戯に、軽率に、この身にその回路を取り込んだ。
確率計算、結論事象算出、合理値比較。何兆も超える情報因子の処理など、ずっとやってきたはずだったのに。
思う、考えるという、不完全な感情の枠組みによって、世界が色付いた。楽しいという気持ちはこれほどのものであったのか、と心臓のない胸が高鳴るのを感じた。
しかし、この世界も完璧ではなかった。
定期的に異界接続を許可し、穴を開けて異界からエネルギーを補給する必要があった。穴を開けると、時々異界のものが迷い込むこともあった。それが後世に、龍や鬼として伝えられることになる。
『この世界、けっこう好きだよ』
無邪気な人の子の、他意のない無責任な言葉。
そんな軽々しい一言によって、この愛し子たちの眠る地を守りたい、墓守としてこの世界を残していきたいと思ってしまった。
嗚呼、誰か。この声が聞こえているのなら応えてくれ。
この涙が、災いとなる前に……。
「……?」
目を覚ました。見慣れた布団。目覚ましが鳴る五分前。
ひどく、長い夢を見ていた気がする。起き上がる頃には、ほとんど忘れてしまったが。どうしてか、胸が締め付けられるような苦しさがあった。
「朝飯作らねえと……」
妙な疲れの残る体を起こし、キッチンに向かった。
思い出せない夢の内容が、喉に引っかかったような痛みを帯びていたのが、不思議な話である。




