3.初耳なんだけど?
そしてその瞬間。派遣員全員が目を見開いた。
概要『人間界への拠点地変更について』
「人間界と帝国……この世界をつなぐ時空ゲートだが、色々と負担が大きくてな。前々から本部で計画が練られていたのだ」
まあ、確かに消費マナ量えげつないし。現在進行形でマナ枯渇気味で倦怠感がひどいが。
「なあボス、俺たち、それ初耳なんだけど?」
「今言ったからな」
「すみませんボス。報・連・相って知ってますか?」
「ああ、知ってる。だからごめん机凍らせるのやめて」
ややキレ気味のアラザン。殺意とマナがダダ漏れであり、色んな意味で背筋が凍る。
「えーと。ボスのことはウチが後できつーくシバいておくんで。話進めよか」
「しれっと吾輩死刑宣告されてないか?ねえちょっと?」
ボスを脇へ置いて、話を進めていく。
「ゲートを開くのも、毎回大変ですからね。通わずに済むのは、マナ的には楽なのですが……」
「あー、すまぬ。ちょっといいかの」
キャラメリゼが指さしたのは、借りる物件についての記載。
「物件が三つしかないのはどういうことじゃ?」
ここにいるのは五人だということを本部は覚えていらっしゃらなかったのか。
そしてまた、小一時間一悶着あり。
曰く、人間界では異界人を受け入れてくれる大家が少ないと。そりゃそうだよな。侵略するわけだし。三つもあっただけ寛大だ。
ボスは妻子持ちということで、体面もあるので、一軒。ザラメとキャラメリゼは、仲の良さもあり同居を選択。
で、残る一軒が問題であった。
「ガナッシュ、屋根の上で寝る覚悟はありますか?」
「お前は道徳心とか持ってねえの!?俺泣いちゃうよ!?」
俺が同性かつ同年代といえども、遠慮がなさすぎるのではないだろうか。
「けっこう広い部屋みたいやし、2LDKって書いてあるし、大丈夫やないかな?ねぇ?」
こうしたザラメたちの必死な説得もあり、渋々ながらもお互いに同居を受け入れることとなった。
「この仲の悪さじゃ。お互い妙な気を起こすこともあるまいて」
「それはまあ、そうだけどよ……」
妙な気以前の問題だ。一歩間違えればフローズンアイスにされてしまう。
「……仕事なら仕方ありません」
不服を全面に押し出した仏頂面で俺を睨みあげた後。ぷい、とそっぽむいてしまう。
「大丈夫なのかよこれ……」
一向に進まない、前途多難な異世界征服計画。
不安しかない中で、物語は一つ前に進んでしまったのだった。