アラザン小話1.旧友
アラザン視点からの話になります。
夏も盛りで。ここのところは、熱中症の危険があるからと戦闘の数も少なくなっている。
しかし、どうにも同居人の体調はすぐれないようで。
「んー、寝苦しいっつーか、なんか肩こりするっつーか。食欲はあるし大丈夫だと思うんだけど」
少々気がかりだったので、幼馴染に頼ることにした。
「もしもし、ザクロですか?仕事を頼みたいのですが。ええ、そうです例の……急ぎ、かもしれません。そうですね、三日後の晩。では」
そして三日後。約束通り、私の自室に直接転移魔法が接続された。
「今宵もご機嫌麗しゅう、氷の君」
公爵級吸血鬼・ザクロ。領地が近く、幼い頃から交友関係がある。専攻は霊魂魔法。名の通り柘榴色の髪、すらりと背は高く、赤のネクタイに紳士服をそつなく着こなしている。
「かしこまらなくていいですよ。実家でもないですから」
「まあまあ。ちょっと言ってみたかったんだ、こういうの」
昔からカッコつけたがりで、やったら随分と様になるものだから。もはや何も言うまい。
靴を脱ぎながら、ザクロは部屋を見回しつつ。
「人間界って、こんななんだね。土足厳禁って、東の地方みたい」
「この国では、のルールだそうです。南東出身のガナッシュはともかく、私は何度も脱ぎ忘れてましたよ」
「だよねー。あれ、ボトルシップは置いてないの?」
「狭い家ですから。これ以上狭くするわけにはいきません」
アタッシュケースを開き、呪符や陣の紙を床に広げていくザクロ。
「致命的に気の流れが悪いね、このマンション」
「何とかなりますか?」
「うん、大丈夫。このくらいなら、今まで何回かやったことあるからね」
杖を喚び出し、軽く握りつつザクロは天井を注視する。
「この世界の霊についてはよく知らないけど、どうにも変だね。まるで死んでないような……。でも、生霊とも違うね?還るべき体との接続線がない」
やはり優秀な人だ、と改めて実感した。
「この町特有の、非蘇生者というものだそうです」
「あー、なるほど。理解したよ」
この町の歪み。暗黙の常識。
「で、取り憑かれた同居人ってのはどこだい?まさか、あの部屋じゃないだろうね?」
「……そのまさかですよ」
ザクロが指さしたのは、まさしくガナッシュの寝室であり。ザクロは引きつった笑みを浮かべた。
「いやいやちょっと待って?あそこ、この家の中でも一番霊が溜まる最悪の場所だよ?悪性が溜まれば即発狂、良性だとしても生命力吸いつくされて衰弱死まっしぐら!君だって見えてないわけじゃないだろ、あの瘴気!」
私も悪魔の血が流れる身であり、そういったものはぼんやりと見ることができる。霊にも微量のマナが流れており、感じ取ることはできるわけだが。




