29.魔王さん怖い
そうしているうちに、反対側に来る者がまたひとり。
「あっ、初めて見る子だ。よろしく、かな?」
黒い鱗。白磁の角。金色の右目、血色の左目には白い✕印。体のあちこちに巻かれた包帯に、上半身はマント一枚。獣脚であり、おそらく竜人というより人亜竜に近い種族。
身の丈は俺と同じくらいだが、声音や仕草はどこか子どもっぽい、不思議なひとだった。
……男、だよな。胸板からして。
「は、はい、よろしく、です」
ガチガチに緊張したままの返事に、黒竜は笑う。
「そんなに警戒しなくていいんだけどなぁ」
いや、警戒するだろ。
……さっきからずっと、このひと足音が一切ないんだから。
え、何このひと。めっちゃ手練れなの?暗殺者?忍者ってやつか?
すると、黒竜はぽん、と手を打って。
「自己紹介がまだだったね。ボクは魔王。シノ=ラグナロード。よろしくね」
にこ、と人懐っこい笑みを浮かべる魔王さん。
この町ほんとに大丈夫なのかと心配になってきた。
「そのピアス、帝国の子かな?」
「あっ、俺、ガナッシュといいます、よろしくお願いします」
というかピアスのレリーフ……銀の匙と花で伝わるのか。帝国も知名度ちゃんと上がってたんだな。そう思うと、ちょっと嬉しい。見た目はちょっとおっかないが、意外といいひとなのかも……?
「ボクね、自殺しようとしたら世界滅ぼしちゃって。時空の穴に落ちちゃって、気がついたらこの町に流れ着いてたの。だから、今絶賛ホームレス中なんだ」
配られたペットボトルのお茶を飲みながら、世間話をするノリで話す魔王さん。
前言撤回。やっぱこのひと怖い。
どうしよう。未だ嘗てないほど危険人物が隣になってしまった。
「魔王にレクイエムを」より、シノの再登場です。闇堕ちIFルートになります。ほとんど別人です。作者のエゴで登場させました。ごめんなさい。




