2.筋肉はアイデンティティだよ
もう一度言っておこう。男である。重要なことだから。
「あ、抹茶はさっき食べたので、チョコ味がいいです」
……やっぱ俺、コイツのこと嫌いかもしれない。北方の大貴族の生まれとは聞いていたが、何故ここまで図々しく育ったのか。
所詮世の中顔なのか!?チクショウこの美少女モドキめ……!
「……ガナッシュ、貴方、今失礼なこと考えてませんか?」
「考えてないぜこの野郎」
「その台詞に怨嗟を感じるのは私だけでしょうか」
チョコ味のお菓子を差し出しつつ、自分の席へと座る。
「そういえば、今日はボスも一緒なんやなぁ。ここ最近、本部とリモートで寂しかったし、ウチ嬉しいわぁ」
「ああ、その本部での仕事が、一段落したからな」
ボスから順に、書類の束を回していく。
「制服の作り直しですか?正直、ガナッシュは露出多くてむさ苦しいですし」
「いやこれ俺のアイデンティティだよ!?むさ苦しいってひどくない!?」
露出が多いのは認める。へそ見えてるし。体温がもともと高いから重ね着したくない、と制服の申請書に書いたためである。
まあ、少なめの生地も異様に薄くて、体のラインが出てしまっているのは否定できない。あと、胸の上のこのベルトって何のためにあるんだろう。
「俺、ちゃんと鍛えているからな?ほら見て上腕二頭筋」
「そういうところがむさ苦しいんですよ」
やっぱコイツ冷たいと思う。
「ウチの制服もちょっと変えてほしいんやけどなぁ。ちょっと胸周りキツイし……」
豊満な肉付き。軍服風の厚手の生地の上からでも分かる果実のサイズ感。
「ワシ、時々お主の隣にいるのが辛いんじゃが」
マントに全身すっぽり入った、てるてる坊主のごとき幼女は悔しげに睨んでいた。
「お前の制服も、もっと改造申請出してもいいんじゃね?」
「……私はこれでいいです。下手なこと言ったら、またミニスカ送りつけられることになるので」
あ、申請出したことはあったんだ。てかミニスカ送りつけた奴誰だよ。命知らずかよ。
「私、セクシー担当じゃないですから」
服に関しては、このメンツでは一番地味なアラザン。黒地にブルーの差し色が入ったローブに、すらりとしたロングブーツ。腰には、我らが帝国のシンボルたる銀色の匙と花のレリーフ。シンプルながら、もとの顔の良さもあって憎らしいほど似合っていた。
「すまん。盛り上がっているところ悪いが、制服の話ではない」
ボス、それもっと早く言うべきじゃないかな……と思いつつ、書類に目を落とした。