16.マヌケが二人いる
俺の言葉を聞いたアラザンは目を丸くして。見る間に顔が赤く染まっていた。
「え、えっと……それは、その……」
目線を泳がせ、口をモゴモゴさせ。しどろもどろになっていく様は見ていて愉快だった。
「へえーそうなんだー?俺への日頃の感謝ってやつ?ふーん殊勝じゃん?」
じ、と顔をよく拝んでやろうと身を乗り出すと。アラザンはおぼんで顔を隠しながら。
「……ほんとに美味しいものを食べているときは無言になるのか、確認したかっただけです」
そんなこと律儀に真に受けてたのかよ、と笑いそうになったが。ティラミスの一杯目を食べている最中、自分が一言も喋らなかったことを思い出した。
「私の勝ちということでいいですか」
恥ずかしさで床に丸まった俺を、幾分威勢を取り戻したアラザンが見下ろす図。
「メシマズなくせに何でお菓子はいっちょ前に作れるんだよチクショウ」
「失礼極まりないですね貴方」
特大ブーメランをかます坊っちゃん。ここは自覚ないのかよ。
「ま、夢中になって頬張る貴方を見るのも気分が良いので。また作ってあげますよ」
上から目線のドヤ顔。完全に調子を取り戻したなコイツ。
しかし、一杯目を食べ終わったときに見た顔。勝ち誇ったというより、期待が実って安心したような。安堵の微笑みに近いものだった。
……引き分けということにしておこう。俺の中では。
「なあ、クレープ食べたいんだけど。作れるか?」
「あれは設備がないと難しそうですね。プリンやババロアならできますが」
「じゃあ両方食いたい」
「ワガママですね……まあいいでしょう。私に感謝して食べることですね」
こうして、心の距離はまた一つ縮まったのであった。