15.俺のための?
人間界に住み始めてから数ヶ月。少し汗ばむくらいの気温になってきた今日このごろ。
「このあいだの調査から、試作してみました。味はほぼ同じはずです」
非番。今日は台所を占拠すると宣告を受けていた。
家事スキルの欠落を見ていると、ちゃんとお菓子作りの能力が備わっているのか心配だったが。それは杞憂に終わった。
食卓に座らされ、差し出されたのは、小洒落たガラス容器に盛られたティラミスだった。
「え?これ食っていいの?」
「むしろ食べてもらわないとこちらが困るのですが」
味見役だなんて、役得だなあと思いつつ。ご丁寧に冷やされたスプーンで一口頬張った。
「……!」
このあいだのも美味しかったが、今日のは特に美味しかった。何が違ったのかは分からないが。無心に一口、もう一口と食べてしまった。
そして、空になった容器を差し出し。
「おかわりをくれ」
「定食屋ではないのですが?」
そう言いつつも、バットからまた切り出して盛ってくれた。
「いっそバット分丸ごと食いたいんだけど」
「ダメです。ボスたちにも試食してもらうんですから」
そういえばそうだった。危ない。危うくキャラメリゼの鉄槌を食らうところだった。
「てか、これ味変えた?なんか前よりうまい気がする」
「コーヒーの風味を少し弱めてみました。お子様舌な貴方はそっちの方が良いでしょう」
お子様とは失礼な、と思ったが。ちょっと待てよ。
「それってつまり……俺のために、わざわざレシピ調整したってこと、か……?」
自分でも言っていて信じられない内容だった。
だって、アラザンだぞ?あのアラザンだぞ?