13.カップル限定品
そして、日も暮れてきて。もう帰るかというときに、商店街の一角に、小さな店を見つけた。
わらび餅専門店。しかも、飲むわらび餅という新時代のスタイル。俺たちの世界にはまだない食べ方。
特に看板でイチオシされている、カップル限定のラブリーストロベリースペシャルに惹かれてしまう。味の想像がつかない。てかわらび餅をストローで飲むとか正気かよ。
いやでも流石にな、カップル限定だからな。流石に……。
食欲と理性で葛藤していると。おもむろにアラザンが歩きだした。
「えっ、ちょ、アラザン?」
てくてくと歩いて行ったかと思えば。件のわらび餅屋に入り、ポップを指さして。
「ん」
と、口をつぐんだままに、買えと要求していた。
「おー、嬢ちゃん、そっちは彼氏さんかい?」
多少からかうような店主に、無言のまま頷くアラザン。
あ、黙っていればって条件、ちゃんと守ってんのかコイツ。変なところで律儀だな。
「あいよ、ラブリーストロベリースペシャル。末永く爆発しろよリア充共」
これは祝福なのか怨嗟なのか。
まあ、そんなこんなで。カップル限定商品が手に入ってしまった。
「もしかして、気ぃ遣ったのか?お前が?」
「あんな分かりやすく食べたそうにされては、無視できませんよ」
アラザンは三口分くらい食べて、残り全部俺にくれた。ちょっと信じられなかった。今日だけは俺のカノジョって……冗談じゃなかったのかよ。
どうしよう、急に恥ずかしくなってきた。
しかし、今日一日の行動を振り返ってみると。
「これ、パパ活じゃない……?」
「そこはデートといいましょうよ」
それもそれで恥ずかしいんだってば。
そう言いつつも。わらび餅は美味しかった。
甘い不思議な液に浸る、トロトロのわらび餅。これは餅を名乗っていいのか、これは固形物なのかと疑いたくなるほどのなめらかさ。生クリームのさらなる甘み。それを引き締める苺の酸味。フローズンストロベリーはシャリシャリと食感の変化をもたらし。かき混ぜれば、クリームのまろやかさに味がまた整っていく。
「わらび餅めっちゃ美味しい」
「貴方、今日それ十回は言ってますよね」
呆れつつも笑っているあたり、コイツも楽しんでいるらしい。