92.あまりにも乙女チックだったので
そこでガチャリと、玄関の扉が開く音がした。
「ただいま戻りまし……え?」
あ、と思ったときにはアラザンがリビングに至っていた。
そして俺の手がスライムに沈んでいるのを見て、迷いなく杖を構えた。
「今、楽にしますから……」
「待て待てこれは事件じゃなくて、ねえちょっと!?」
一〇分後。何とか誤解を解いた。スライムは台所に流された。悲しい。
「スライムはダメです。性癖が歪みます」
「いや、小学生も授業で作るやつだろ」
「それでもです。貴方の歪んだ性癖がこれ以上こじれたらどうするんですか」
真犯人が何かほざいてんな。やや変態気味なのは認めるが、そこまでまだ歪んではないはずなのだが。
「そこまで言わなくてもいいだろ!?ちょっと脚フェチとМっ気とロリコン疑惑があるだけじゃん!?」
「だけってレベルじゃないですよその三属性」
チクショウ言い訳ができない。
「だいたいミーティアのせいだし、俺悪くないし……」
「責任の押し付け方下手くそ過ぎません?」
誰か上手な押し付け方知っていたら教えてほしいのだが。コイツは知っていても教えてくれそうにないし。
「私だって、冷気くらい出せますが」
おもむろに、アラザンがソファにいた俺の横にどかっと座った。するとひんやりとした氷のマナが広がり、涼風が頬を撫でた。ふてくされた表情が、どうにも子供っぽかった。
「やっぱ氷属性って便利そうだな、エアコンも冷蔵庫も自前できるし」
言いながら、何気なくその腰を抱き寄せていた。触れ合った体が冷たく気持ちよくて、無意識での行動であった。おそらくラムネのスキンシップが異様に多かったのが原因だ。
「……あ」
アラザンが頬を赤らめていた。指がぎこちなく、どうしようもなさげに動いていた。
「悪い、無意識だった。ごめん」
すぐに離れて両手を挙げる。降伏の表明であった。
しかし、野郎同士で、裸も知っている間柄で。コイツから抱きついてくることだって何度もあったし、何を今更とは思うが。反応があまりに乙女チックだったのでつい。
そしてまたアラザンは急に立ち上がり。
「……今夜は、一緒に飲みませんか」
波乱の夜を、宣言した。